彗星のように現れたホラー小説家
澤村伊智さん(40歳)は現在最も注目されているホラー小説家の1人だ。
2015年、初の投稿作品『ぼぎわん』でいきなり第22回日本ホラー小説大賞の大賞を受賞した。本作品は『ぼぎわんが、来る』としてその年のうちに出版された。2018年には『来る』のタイトルで実写映画にもなった。
そして2017年に上梓された『ぼぎわんが、来る』の続編である『ずうのめ人形』は第30回山本周五郎賞候補になった。
澤村さんは『ぼぎわんが、来る』シリーズの続編にくわえ『予言の島』『ファミリーランド』と新作を次々と発表している。
彗星のように現れた新人作家、澤村伊智さんは、どのような道を経てプロのホラー小説家になったのだろうか?
澤村さんが所属する合同事務所内で話を聞いた。
澤村さんは大阪府の豊中市で生まれた。
父親はサラリーマン、母親は専業主婦、4人兄弟の長男だった。
「文字の読み書きができるようになるのは早かったそうです。母方の祖父母にとっては、僕が初孫だったので期待が大きかったみたいで、児童書や世界の名作童話などの本をたくさん買い与えられました。小さい頃は、もっぱらそれらの本を読んでいました」
小学3年生のときに、兵庫県宝塚市に引っ越した。新居は高層マンションの14階だった。
転校はちょうどクラス替えのタイミングだったし、ニュータウンに引っ越して来た子どもは澤村さん以外にもたくさんいたので、妙に浮いてしまったり、孤独になったりすることはなかった。
「クラスの学級文庫に、おそらく先輩が置いていったであろう本がたくさんありました。『恐怖の怨霊大百科』だの『絵ときこわい話怪奇ミステリー』だの、先生が生徒たちに読ませたいとは思わないようなおどろおどろしい本です」
澤村少年はそれらの本に強い興味を引かれた。そして熟読するととても怖くなった。本気で怖いのに、気がつくとまた読んでいた。
「それで家に帰るのが怖くなってしまったんです。集団登校だから行きはいいのですが、帰りはどうしよう?って。自室のある14階までのエレベーターに1人で乗るのもすごく怖くなりました。しかたなくこっそり友達に打ち明けて、自室の前まで一緒に付き添ってもらいました。結局、恐怖感は1年くらい続きました」
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