怪獣の絵を描いて人生を切り開いた男の仕事観 ガンダム、ゴジラ、ウルトラマン…何でもござれ

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開田さんオリジナルの怪獣画(開田さん提供)

「大学は、物作りをする人たちが集まる特殊な空間で楽しかったです。月から金まで、それぞれの先生が課題を出すので、ずっと忙しく制作していましたね。午前中は英語や数学などの授業はあるけど、午後は全部創作活動ですから、部活をやっているようなものでした。生徒同士『負けられない!』というライバル心を持って制作していました。

ちょうど『学園闘争時代』が通り過ぎた後で、みんなの中に『そんなことより創作しなければ!!』という考えがありました。絵の世界は、一目瞭然で差が出てしまうごまかしのきかない世界ですから、みんな一生懸命描いていました。

そうして毎日制作ばかりしていましたが、多少は体を動かさないとダメだと思って、軟式テニス部に入っていました。愛好会レベルの楽しい活動でした」

大学時代のいちばんの思い出は学園祭だ。

山車を作って、京都の市役所まで仮装行列で練り歩くのだ。

「先輩たちが練り歩く最中に乱暴狼藉を働いたらしく、以来廃止になっていたんです。それが僕の代で復活しました」

一般道を練り歩くにはかなり際どい形の山車を作った。通行人からは、ひんしゅくを買いながらも、大勢で練り歩いた。

「酒は飲むな!!」

と言っていた教授が、真っ先に酔っ払って一升瓶を持って走り回っていた。

特撮ファンを中心にした同人団体がつくられ…

開田さんが大学生活を満喫している頃、東京では雑誌の投書欄を通じて、怪獣映画が大好きな人達が集まる流れができていた。表立って大人が「怪獣映画好き」を名乗るのははばかられる時代だったが、募集をかけると、

「実は俺も怪獣映画が好きなんだ!!」

という人は世の中にたくさんいた。

そして東京の特撮ファンを中心にした『宙(おおぞら)』という同人団体が作られ、会誌『PUFF』が創刊された。

東京でそのような流れになっていたので、大阪でも『宙』の関西支部を作ることになった。開田さんは旗振り役になり『セブンスター』というサークルを立ち上げた。

「メンバーを募って『衝撃波Q』という同人誌を年4回発行する心意気でした」

衝撃波Qの編集スタッフで『伝説的な人たちにインタビューしたいよね』ということになり、いきなり電話をして本多猪四郎さん(初代『ゴジラ』監督)や、伊福部昭さん(初代『ゴジラ』音楽)など雲の上の人たちに話を聞きに行ったこともあった。

「僕らみたいなわけのわからない奴らが押し寄せても、嫌な顔せず話をしていただき大変ありがたかったです。僕の中で、とても大きな財産になりました」

夏休みには、特撮怪獣映画の研究サークル「怪獣倶楽部」を主催する竹内博さんに、「東京へ遊びにこないか?」と誘われた。

「怪獣倶楽部にはすごい人が何人もいました。私などとても太刀打ちできないレベルまで怪獣や特撮映画を掘り下げて研究している人たちばかりで、

『ならば僕は、自分の得意な絵で頑張ろう』

と思いました。そうしていたらだんだん周りに、

『コイツは絵が描けるヤツなんだな』

と認識してもらえるようになりました」

『怪獣倶楽部』の活動は実に40年ほど経った2017年、『怪獣倶楽部~空想特撮青春記~』(毎日放送)としてドラマ化された。

開田裕治さんと同じに、絵を得意とするキャラクターも、ユウスケとして登場している。

「テレビドラマになるとは夢にも思っていなかったですよ。ドラマでは怪獣少年たちがまじめな話をしていますけど、特撮の話よりも馬鹿な話ばかりしていた思い出ばかりが記憶に残っていますね(笑)」

大学4回生(4年生)になってからは、あまり学校には行かなくてよくなった。

音楽の評論活動をしていた友達に誘われて音楽雑誌の立ち上げを手伝うことになった。

次ページ卒業後は美術系の印刷会社に就職
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