怪獣の絵を描いて人生を切り開いた男の仕事観 ガンダム、ゴジラ、ウルトラマン…何でもござれ

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「ロックは高校時代から好きでした。最初に買ったLPは、1969年のウッドストック・フェスティバルのアルバムでした」

表紙デザインや紙面レイアウトも、開田さんが作ることになった。同人誌の経験もあったので、見様見真似でなんとか作った。

「音楽雑誌制作が忙しくなったのでファン活動にかける時間は少なくなりましたが、『怪獣倶楽部』とのつながりはその後も続きました。

音楽雑誌は給料もあまりもらえず、1年間働いたところでけんか別れのような形でやめてしまいました」

そうして大学を卒業したが、卒業後どの道に進むのかはまったく考えていなかった。

同級生の多くは教職課程を取って、先生になる人が多かった。ただ開田さんは、

「教師になんかなってたまるものか」

と思っていたので、教職課程は取らなかった。

「さすがに働かなきゃ!!と思いましたね。新聞の人員募集を見ていたら、美術系の印刷会社の募集が出ていました。面接で『美術大学を出ています!!』と言ったら即採用になりました」

家族経営をしている印刷会社で、チラシや社員手帳などを制作していた。開田さんは版下作りを任された。

「働いていると、ありがたいことに怪獣倶楽部のつてで東京の雑誌などからイラストの仕事をいただきました。だんだんイラストの仕事が増えてきて睡眠時間が取れなくなってきました」

会社を辞めて上京、イラストレーターとしてのスタート

会社は大阪にあったので、実家から通っていた。駅のホームに立って電車を待っていると、そのままウトウト寝てしまって線路に落ちそうになってしまった。

「さすがに両立はしんどくなりました。東京でやっていける自信はまったくなかったですけど、会社を辞めて上京することにしました。

一軒家を借りて、大学の後輩2人とハウスシェアをして生活をはじめました。そこが僕のイラストレーターとしてのスタートですね」

開田さんが東京に住み始めたのは1978年だった。スターウォーズの1作目が公開されたり、翌年に機動戦士ガンダムの放送が始まったりと、現在にもつながるようなムーブメントが出てくる年だった。

開田さんは、『てれびくん』(小学館)、『テレビマガジン』(講談社)などの子供向けの雑誌に、怪獣の内部図解の挿絵を描くことが多かった。

『週刊少年ジャンプ』(集英社)で、怪獣カードのイラストを描く連載や、ヨーロッパの鉄道カードの路線図を描く連載をしたこともあった。

「ただ僕もさすがにイラストレーターになったら、怪獣の絵ばかり描いてやっていけるわけがないと思っていました」

あらゆるイラストを描かなければならない。

どんな仕事が来ても受けられるようにしなければならないと思っていた。

実際、怪獣とはまったく無関係の大きな仕事が来たこともあった。

代表的な例だと、大手デパートが大規模にリニューアルされたのを記念して描いた、デパートの館内の全面内部図解を描く仕事だった。

大きな仕事だが、大変手間のかかる仕事だった。そのため有名なイラストレーターが嫌がり、新人の開田さんにお鉢が回ってきたのだ。

B0サイズ(1030mm×1456mm)という大きな作品だったため、自宅では作業はできなかった。雇い主は青山に制作専用の部屋を借り、エアブラシなどの画材もワンセット用意してくれた。

「その部屋で2週間かけて描いてください、と言われました。用意されたのは建物の図面だけでした。いきなり図面からは絵を起こせないので、一級建築士を呼んで線画を起こしてもらいました」

出来上がったビルの線画の中に、陳列されている商品や人などをひたすら描き込んでいった。

「最初はちまちまと1人で描いていたんですが、丸1日かかっても地下の厨房しか描けませんでした。これじゃダメだっていうんで知人を呼びました」

絵が描ける知り合いに応援を頼み、たくさん人物を描いてペタペタと絵に貼っていくことにした。

それでも手が足りないと言うと、雇い主がベテランのイラストレーターを呼んでくれた。

次ページだんだん怪獣や特撮の仕事の割合が増え…
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