セパージュ時代の到来(3)成長:消費者の視点《ワイン片手に経営論》第17回

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■画一化が進むワインとそれを支える技術

 このような評価システムが登場すると、どうやったら高い評価点をもらえるか造り手サイドも考えるようになってきます。特に、「1995年以降からパーカーを中心とした商業システムが動き出した」と言われ、一流シャトーでは、「点数が八五点から九五点に変わるとすると、売上がおよそ六〇〇万から七〇〇万ユーロも違ってくる」「一〇〇点満点をもらったシャトーの価格は、四倍に跳ね上がる」(エリン・マッコイ、『ワインの帝王 ロバート・パーカー』、白水社)といいますから、造り手も真剣にならざるを得ません。資本主義的な市場のメカニズムによって造り手サイドが変わり始めたのです。

 ロバート・パーカーから高い評点を得ようとする造り手の中には、ワイン・コンサルタントを雇う人たちがでてきました。パーカーが高く評価するワインはどんなワインで、そのワインを造るためには、技術的に何を改良しなければならないか、教えを請うわけです。このようなアドバイスを行うワイン・コンサルタントの中でも筆頭格が、ミッシェル・ロランです。

 彼は、世界12カ国、100以上のワイナリーを顧客に持ち、その顧客リストには、世界トップクラスのワイナリーが名を連ねていたといわれています。彼は自らの醸造哲学と最新の醸造技術の知見をベースに、「空飛ぶ醸造家」として、世界中を飛び回りながらアドバイスをしているのです。

 このワイン造りの画一化には、良い面と悪い面があります。やがて、パーカー・スタイルのワインがばかりがもてはやされ、そうでないスタイルのワインが売れなくなり、値下げを迫られるという現象まで起き始めます。フランス人はこうした現象を「パルカリゼ(パーカー化された)」と呼びました。ワインは嗜好品ですので、このような現象はあまり好まれないでしょう。一方で、ミッシェル・ロランが確立した技術は、国境を越え世界中で展開可能なものでした。こうした技術が、ブドウ品種のクローン(枝わけ)とともに世界中に広がり、世界全体でワインの質の底上げに貢献していると思われます。

 今回のコラムでは、セパージュ主義を検証してきました。セパージュ主義的なラベルは消費者にとって、より分かりやすいマーケティングの意味合いがあること。また、ロバート・パーカーという消費者の立場からワインを評価する人が現れたこと。さらに、パーカー的なワインを造る技術がミッシェル・ロランを中心とした醸造コンサルタントによって世界に広がっていること。このミッシェル・ロランがまさに、セパージュ主義的なワイン造りを後押ししていること。

 セパージュ主義は、世界中で、造り手と消費者に受け入れられ、ワイン業界を席巻し始めたのです。

 次回は、世界に広がっていく様を具体的な事例でお話したいと思います。
*参考文献 
エリン・マッコイ、『ワインの帝王 ロバート・パーカー』、白水社
ロバート・モンダヴィ、『最高のワインをめざして ロバート・モンダヴィ自伝』、早川書房

《プロフィール》
前田琢磨(まえだ・たくま)
慶應義塾大学理工学部物理学科卒業。横河電機株式会社にてエンジニアリング業務に従事。カーネギーメロン大学産業経営大学院(MBA)修了後、アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社入社。現在、プリンシパルとして経営戦略、技術戦略、知財戦略に関するコンサルティングを実施。翻訳書に『経営と技術 テクノロジーを活かす経営が企業の明暗を分ける』(英治出版)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2009年10月28日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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