ワインの近代化 その2 ワインの神秘に科学技術のメスが《ワイン片手に経営論》第11回

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ワインの近代化 その2 ワインの神秘に科学技術のメスが《ワイン片手に経営論》第11回

■ナポレオン三世からの相談

 前回のコラムで、ルイ・パストゥール(1822-1895)がアルコール発酵のメカニズムを明らかにした様子をご紹介しました。砂糖ダイコンを原料にアルコールを造る工場でなぜ酸っぱい不良の樽ができてしまうのか。その原因を探っていく過程で、アルコール発酵に微生物が介在していることを突き止めたという話です。

 彼は、この功績によって発酵に詳しい学者として、1862年にナポレオン三世(1808-1873)から相談を受けます。

フランスのワインはどこかひどくおかしくなっている。新しく自由貿易主義が標榜されて、空前の輸出時代を迎えているというのに。れっきとした商人が買い付け、大切な外国の顧客に送られた瓶のうち、相当数が、飲むに耐えないワインに変質している。フランスの名とその最も有名な産業が、危機にさらされている」「帝国の名にかけて、すぐれた学者が調査し、報告してくれないだろうか」(*1

 パストゥールは、この命を受けて研究調査を始めました。

 「彼(パストゥール)は顕微鏡の下の<ありとあらゆる種類の無数の微小な微生物>を発見し、酢を生じさせる菌を分離することにも成功した。<善玉の>酵母が引き起こすアルコール発酵と細菌が引き起こす有害な発酵を区別し、後者はワインが空中の酸素と長期間接触することによっておこることを確認した。変質を引き起こす菌が加熱によって死滅することが実験で明らかになると、一八六五年にワインの<パストゥリゼーション(低温殺菌法)>の特許を登録した」(*2

 低温殺菌法は、現在でも使われている技術で、パストゥールの偉大な功績です。これはワイン造りだけでなく、普通の家庭や医療機関などどこでも応用できる技術だからです。低温というのは「煮沸に比べて」という意味だと思いますが、50~60℃のことです。このパストゥールによる功績は、ワインが科学技術の手によってその正体を明らかにする、先駆けとなりました。

*1 ヒュー・ジョンション『ワイン物語 上』、平凡社
*2 ジルベール・ガリエ、『ワインの文化史』、筑摩書房
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