ワインの近代化 その2 ワインの神秘に科学技術のメスが《ワイン片手に経営論》第11回

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 ミクロ・オキシジェナシオンとは、ワインを小さな気泡と触れさせて、ゆっくりと酸化させていく技術です。樽熟成をする際に、樽の中でワインに起きていることは、実はゆっくりした酸化作用なのですが、それを気泡によって擬似的に樽熟成のような環境を作り出した技術です。

 このように20世紀後半に、ワインの技術は大きく前進しました。しかし、この技術の前進が、ワイン業界を二分する話に発展していくのです。20世紀の時点で、もはや1000年近くのワイン造りの伝統を築き上げたフランスと、科学的なアプローチで品質の高いワインを造り始めた米国を代表とする新興国です。前者は、その土地に根ざした人たちが代々継承されてきた知識と経験をフルに活かして世界でも最高クラスのワインを造って来ました。一方、後者は、新たな土地にやってきた人たちが、科学的知見を活かしながら、それまで新興国では造ることができなかったような高い品質のワインを造り始めたのです。

 というわけで、次回以降は、伝統国と新興国の間で、ワイン造りの思想に大きな違いがあることをご紹介しつつ、現在ワイン業界が直面している大変動をお話ししていきたいと思います。

*参考文献 
宮崎正勝 『世界史を動かしたモノ事典』 日本実業出版社
ビバリー・バーチ『パストゥール』偕成社
ジェラルド・L・ギーソン『パストゥール 実験ノートと未公開の研究』青土社
新村出編『広辞苑 第六版』岩波書店
『新漢語林』大修館書店
《プロフィール》
前田琢磨(まえだ・たくま)
慶應義塾大学理工学部物理学科卒業。横河電機株式会社にてエンジニアリング業務に従事。カーネギーメロン大学産業経営大学院(MBA)修了後、アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社入社。現在、プリンシパルとして経営戦略、技術戦略、知財戦略に関するコンサルティングを実施。翻訳書に『経営と技術 テクノロジーを活かす経営が企業の明暗を分ける』(英治出版)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2009年7月14日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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