ワインの近代化 その2 ワインの神秘に科学技術のメスが《ワイン片手に経営論》第11回
■害虫(フィロキセラ)上陸
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19世紀半ばというのはどういう時代であったかといえば、日本は江戸時代末期、黒船が横須賀の浦賀に来たころです。1853年のことでした。こうしたことを思い起こすと、世界の技術水準がどの程度であったか想像できると思います。世界の列強が蒸気船を使って世界を駆け回り植民地政策を推し進めていました。先ほどのナポレオン三世の「自由貿易主義」は、こうした蒸気船を使った取引のことを指していると思われます。
そして、この蒸気船の発達がワイン業界に大打撃を与えることになります。それまで、蒸気船が大西洋を渡るのに何週間もかかっていましたが、9~10日に短縮されます。これは、アメリカ大陸の害虫が航海中に死んでしまう前に、蒸気船がヨーロッパ大陸に到達してしまうことを意味しました。
その害虫とはフィロキセラというアブラムシです。フィロキセラは、もともとアメリカ大陸に生存しており、ヴィティス・リパリアという米国のブドウの木はフィロキセラに対して耐性を持っていたのですが、ヴィティス・ヴィニフェラというヨーロッパのブドウの木はフィロキセラに対して全く耐性がありませんでした。このフィロキセラが、蒸気船のスピードアップによってヨーロッパ大陸に上陸してしまったのです。
フィロキセラは強敵でした。瞬く間にヨーロッパ大陸に広がり、フランスの場合、ブドウの栽培面積は30%も失われてしまいました。当然生産量も激減し、フランスは1870年までは8対1の割合で純輸出国であったのですが、1887年には1対6(200万ヘクトリットル対1200万ヘクトリットル)の純輸入国に転じていました。
このフィロキセラのヨーロッパ大陸上陸は有名な話なのですが、これ以外にも蒸気船の進化によって、それまで知られていなかった病気がヨーロッパにもたらされました。また、蒸気船とは関係なく、ヨーロッパで新たに発見された病気もありました。ベト病、灰色カビ病、ウドンコ病など。しかし、こうしたさまざまな脅威は、ブドウ栽培の技術を発展させることになります。
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