ワインの近代化 その2 ワインの神秘に科学技術のメスが《ワイン片手に経営論》第11回

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 直接やっつける方法とは、害虫を駆除することですが、その方法には、物理的方法、化学的方法、生物的方法が存在します。物理的方法とは、直接取ってしまうとか、水浸しにして溺れさせてしまう方法です。化学的方法は、農薬を燻蒸したり、散布したり、土壌注射したりするやり方です。生物的方法は、害虫の天敵を放し飼いにすることです。

 間接的にやっつける方法は、害虫に対して免疫を付けたり、害虫が侵入できないような環境を作ることです。免疫の付け方としては、フィロキセラの場合はブドウの木の根っこにつくものなので、フィロキセラに耐性のある接ぎ木を利用したりすることです。また、品種改良やフィロキセラに耐性のあるヴィティス・リパリアといったブドウの木を利用することも考えられるでしょう。害虫の侵入を防ぐ環境としては、土壌を砂地にすることも考えられます。フィロキセラの場合、粘土では地中を移動できますが、砂になるとどうやら移動ができないらしいのです。

 以上の体系が頭の中で整理されると、あとは、どのアプローチが最も効果的で実現性が高いのか評価さえできれば、「目利き」ができるようになるというわけです。

 ちなみに、フィロキセラの対策に関して言うと、アプローチのA「耐性のある接木の利用」とB「天敵となる益虫の導入」以外は、実際に当時試されたけれども現実的でなかったり、効果が芳しくなかったりしたため、最終的に採用されなかったものです。そして、当時最も効果をあげ、今でも採用されているアプローチがAです。また、Bは、フィロキセラ対策というわけではありませんが、害虫一般への対策として、最近注目されているビオディナミ農法で見られるアプローチです。

 フィロキセラが大量発生しワイン業界に多大な損害を与えていた当時、実際にここで紹介したような体系図を描いて対策を練っていたわけではないはずですが、結果的にこの体系図に表されるような形で、科学的に思考し、有効なアプローチを考えていくプロセスをたどったのだと思われます。

 こうした考え方は、事業における技術戦略の考え方そのものです。こうした考え方が頭にすっきり入っていると、時代の流れを感じ取りながら、技術投資の「目利き」ができるようになってきます。

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