フランスワインの定着 その1:北限突破《ワイン片手に経営論》第5回

フランスワインの定着 その1:北限突破《ワイン片手に経営論》第5回

第2回から第4回まで、ギリシャ時代からローマ時代前半、紀元1世紀ごろのワインの意味合いやワインビジネスが成立するための技術を見てきました。このころのブドウ栽培はいまだその覇権国であるギリシャやイタリアを中心に行われ、今のフランスであるガリアは、基本的に消費地という位置づけで、ワインの多くを輸入していました。産地はギリシャとローマ、消費地はガリアという構図が出来上がっていたのです。そして、ローマは莫大な利益をこのワイン交易から得ていました。

 当時のガリアにおけるブドウ栽培は、地中海沿岸のマルセイユやナルボンヌ、および地中海に注ぐローヌ河の河口からヴィエンヌに抜けるローヌ渓谷が中心で、ヴィエンヌという街がブドウ栽培の北限であったと言われています。このようにガリアにおいてもブドウ栽培はされていましたが、生産量としてはそれほど多くなく、ヴィエンヌ以北のガリア北部、ライン河沿岸、イギリス市場の需要に応えられるだけの量はなかったようです。

 なお、ローヌ渓谷は、非常に優れたワイン産地で有名です。現在でもフランスワインのなかでも代表的なエルミタージュやコート・ロティといったワインが生産され、19世紀のエルミタージュ産ワインは、現在のフランスワインの代表格であるシャトー・ラフィットやロマネ・コンティと並ぶワインとして賞賛されたり、繊細なボルドーワインを力強くするためにボルドーワインとブレンドして販売されることもありました。19世紀から1500年以上も前であるローマ時代においても、ローヌ渓谷がブドウ栽培にとって恵まれた自然条件を備えていたに違いないと想像されます。一方で、現在のフランスワインの二大銘醸地であるブルゴーニュやボルドーは、ローヌ渓谷に比べ寒冷地であったため、当時のブドウ栽培技術では、充分ブドウが成長・成熟せず、本格的なブドウ栽培は行われていませんでした。

 ガリア人にとって、ブドウ栽培が地中海沿岸やローヌ渓谷のヴィエンヌ以南に限られ、ワインの生産量も充分とはいえない状況は決して満足いくものではありません。はるばるローマから運ばれてきた高価なワインを奴隷や貴金属と引き換えにしてしかワインを飲むことができないという状態から早く脱したいと願っていたことは想像に余りあります。この状態を打開するために、ガリア人が行ったのが品種改良とも言うべき新品種の探索でありました。そして、彼らは実際に新品種を発見し、ガリアにおいて本格的なブドウ栽培に成功したのでした。現在でも通用しそうな新品種探索という発想がローマ時代にあったのはとても驚くべきことです。

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