忍者だけでなく、ときにはポパイに
しかし、長所と短所はコインの表と裏だ。前置きが長くなったが、本題はここからである。
この体の使い方にはメリットがある一方で、デメリットもある。重心がユラユラしていて接触プレーに弱いのだ。
「重心の安定に欠けると、力で負ける相手には弱い。これは柿谷曜一朗選手やネイマール選手にも通じることです」
踏ん張らないで動いているからこそ素早く動けるのだが、その分、押されるとバランスを崩しやすい。俊敏性は世界トップクラスだが、接触プレーの強さという点では日本代表の中でも下から数えたほうが早いだろう。
選手の能力をチャートで表すと、香川は凹凸がはっきりしている選手だ。モイーズはそれぞれに持ち場を与え、各自が責任を果たす「なわばりの足し算」をチーム作りのベースにしている。そういうサッカーの場合、弱点を抱えた選手がいると、そこが組織の穴になるため、どうしても起用に迷いが生まれてしまう。
モダンなドルトムントでは相手に当たられずにプレーできたが、クラシカルなモイーズ体制では当たられないようにしても限界がある。忍者だけでなく、ときにポパイになることが必要だ。
逆に考えれば、うまく相手にぶつかる体の使い方を覚えるチャンスとも言える。トレーナーの西本によれば、日本人のフィジカル能力でも十分にそれが可能だ。詳しくは別の機会に紹介したいが、エッセンスだけ書くと、体全体をバランスボールのようにして力の方向をずらしてやればいい。
「自己満足のプレー」と「勝たせるプレー」
もうひとつ、気になることがある。それは成功体験の足かせだ。
現在のプレーを見ると、ドルトムント時代と同じように、ワンタッチで味方にボールを預けるプレーが多い。頭も足も動いているときは、香川自身がすぐにパスコースに顔を出して、再びボールを受けて局面を打開するのに大いに貢献している。
だが、頭と足のどちらかが止まり、パスを預けるだけで終わってしまっていることがある。そうなると味方はプレスの餌食になってしまう。風間監督の表現を借りれば、「パスを出した後に自分が絡もうとしないのは、爆弾を渡すようなもの」だ。ドルトムントだったら次々に味方がパスコースに顔を出してくれるので問題にならないが、マンチェスター・ユナイテッドだと爆発してしまう。
自己満足のプレーと、勝たせるプレーは違う。監督に認められるには「勝たせるプレー」をしなければならない。
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