チーム内の誰よりも優れた武器を持っている。なのに、監督から出番を与えられない――。
マンチェスター・ユナイテッドに所属する香川真司が、苦境に立たされている。今季から指揮を執るモイーズ監督に認められず、ピッチから遠ざかっているのだ。冬にスペイン代表のマタが加入してからは、さらに序列が下がってしまった。ここ1ヵ月間の出場は1月22日のサンダーランド戦(リーグ杯準決勝)と2月25日のオリンピアコス戦(チャンピオンズリーグ)のみ。選手にとって、試合に出られないことほどツライことはない。
日本だけでなく、イングランドでも香川に同情する声が上がっている。モイーズ監督の手腕が、前任者のファーガソンに比べて明らかに劣るからだ。ファーガソンと同じスコットランド出身のこの50歳は、まだチームとしての方向性を示せていない。首位チェルシーと勝ち点差15の6位に低迷し、4位以内に与えられるチャンピオンズリーグ出場権の獲得も危うくなってきた。
イケイケのベンチャーから1部上場企業に
2年前、香川は名将たちから絶世の美女のように扱われていた。
ドイツのドルトムントで大ブレークし、その敏捷性あふれるプレースタイルは、近代的サッカーと抜群の相性を発揮した。アーセナルのベンゲル監督らが獲得に名乗りを上げる中、ファーガソンはドイツまで飛んで香川に求愛し、最後はマンチェスターのホテルで「キミがほしい」と口説き落としたのだった。
ファーガソン監督はコーチに最先端の知識を持つ人材を招き入れることで、27年間にわたってトップレベルを維持した名オーガナイザーだ。だが、気がつけばひとつのスタイルを貫き続けたバルセロナに大きく引き離されていた。
後れを挽回するには、スタイルを変換できる選手を獲得すればいい――。香川はマンチェスター・ユナイテッドをモダン化する切り札になるはずだった。
ところが、香川にとって想定外のことが起こる。加入からわずか1年でファーガソンが去ってしまったのだ。後任でやって来たのは、オーソドックスな考えの“無難”な指揮官だった。
あえてビジネス界に置き換えるなら、ドルトムントというイケイケのベンチャー企業でエース社員になった若者が、1部上場の名門企業から声をかけられて乗り込んだものの、わずか1年で保守的な上司がやってきた……という感じだろうか。
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