本田と大迫が陥った「骨折り損のくたびれ儲け」
トータルフットボールによって74年W杯を席巻したオランダの英雄ヨハン・クライフは、W杯の戦い方についてこう語ったことがある。
「W杯は短期間にたくさんの試合を戦わなければならない。いくつかのオプションが必要だ。ひとつの戦術に頼ったら限界がある」
では、ひとつしか戦術がなかったら、どんな限界に直面するのか――。6月14日の日本対コートジボワール(1対2)は、まさにその答えが導き出された試合になってしまった。日本は先制しながらも、後半に2点を奪われ、痛恨の逆転負けを喫してしまった。
まずは敗因を大雑把に理解するために、日本がコートジボワール戦で陥った“負の連鎖”を5つのステップに解剖してみたい。
ザッケローニ監督は攻撃的サッカーを掲げているものの、その戦術指導の中で最も優れているのは守備の方法論だ。場面ごとにやるべきことを細かく教え、それを統合してチーム全体を“プレッシング・マシーン”に仕立て上げる。労を惜しまないチェックによって相手をサイドに追いつめ、選択肢を狭めたところでボールを刈り取る。今大会に向けた準備期間、ザック流プレスのおさらいを入念に行なった。
だが、コートジボワール戦では、その自慢のプレスがまったくかからなかったのである。
コートジボワールのDFたちは足が速いだけでなく、技術もしっかりしており、トップ下の本田圭佑と1トップの大迫勇也が圧力をかけても慌てず、すっとボールを持ち出してかわしてしまう。さらにパススピードが速いため、追いかけても間に合わない。ボランチのパスコースを作る動きも丁寧で、2人の必死のチェイシングにもびくともしなかった。
試合後、本田は長友佑都にこうもらしたという。
「まるで練習のボール回し(2人が鬼役になって6人からボールを奪おうとするメニュー)をしているようだった」
チームとして本気でボールを奪いに行くのであれば、中盤の選手が援護射撃をすべきだったが、後ろにいた選手たちはそこまでのリスクを冒そうとはしなかった。
本田と大迫はまさに「骨折り損のくたびれ儲け」。後半、本田の体の切れが突然落ちたのは、前半に消耗したからだろう。この日の本田は献身性に満ちていたが、先制点を除くと、それが報われることはなかった。
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