人生を賭けた大一番に臨むとき、指揮官は希望を全面に出した「楽観主義者」になるべきか。それとも最悪の事態に備えた「悲観主義者」であるべきか――。アルベルト・ザッケローニ監督のメンバー選考は、その問いを考える上で大いに参考になるかもしれない。
5月12日、ザッケローニ監督はブラジルW杯に向けた日本代表のメンバー23人を発表した。その会見において、カルチョの底辺から這い上がってきた名将は、イタリアの格言を引用した。
「イタリアではこんな表現がある。『グラスに半分の水が入っていたとき、十分入っていると捉えるのか、それとも半分しか入っていないと捉えるのか。人によって見方が変わる』。私は後者のタイプではない。ポジティブに物事を考えて、成功のイメージだけを持ってやっていきたい」
何事にも必ずプラス面とマイナス面があるものだ。ネガティブな方に引っ張られてしまわず、良い方向に進むと信じて最高の準備をしよう、ということだろう。
2006年W杯の苦い思い出
今回、ザックがこの発言をしたのは、ケガで離脱している内田篤人と吉田麻也、および復帰直後の長谷部誠について「確信があるのか、それとも賭けで連れて行くのか?」と問われたときだった。
FIFAのルールでは、5月13日までに提出しなければならないのは30人の予備登録リストで、正式23人の締め切りは6月2日だ。現時点で23人に絞る必要はなく、ケガ人がいる場合は多めに選出しておくのが無難だと思われる。
実際、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表はMFムイジャがリハビリ中のため、それを考慮して24名を選出した。ケディラ、シュメルツァー、ヤンゼンら復帰直後の選手を抱えるドイツ代表は30名を選出。他にも事情や狙いはそれぞれだが、アメリカ代表、ロシア代表、コスタリカ代表は30名、ウルグアイは25名を発表した。
日本は予備登録の7人を用意しているものの、彼らは合宿には参加しないため、ケガ人が間に合わなかった場合、合宿地のアメリカまで呼び寄せなければいけなくなる。
2006年W杯の直前には、そういう不測の事態が起こった。
ドイツ入り後の練習でセンターバックの田中誠が負傷し、ハワイにバカンスに行っていた茂庭照幸を急遽招集。あくまで茂庭は第4のセンターバックにすぎず、出番はないと思われたが、ジーコ監督が初戦のオーストラリア戦で3バックを採用し、さらに後半に先発の坪井慶介の足がつったことで、茂庭は緊急出場を強いられた。
そして、日本はラスト9分に3失点して衝撃的な逆転負けを喫した。茂庭自身のパフォーマンスに大きな問題はなかったが、他の選手との連携に疑問が残った。
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