ザッケロー二が示した「楽観的姿勢」の意味 内田、吉田、長谷部の選出に込めた思い

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内田というシンボル

今回は特に、まだチーム練習に復帰していない内田の状態が心配される。リスクマネジメントで、バックアップを用意するという選択肢もあった。2010年W杯を経験している駒野友一やムードメイカーの槙野智章など、ふさわしいと思われる候補がいた。彼らなら内田が間に合った場合、メンバーから外れることを受け入れてくれただろう。

しかし、ザックの考えは違った。

「コートジボワールとの初戦まで約1ヵ月あるし、3人の選手は合宿合流から100%の状態でトレーニングに参加できるという情報が届いている。『水が半分も入っている』と解釈すれば、彼らはしっかりと休みを取れたと考えることもできるんだ」

これまでザックは、「勇気とバランス」という哲学が象徴するように、石橋を叩いて、叩いて、心から納得して初めて渡るという慎重な指揮官だった。勝負師というより、職人的な感じだ。

だが、それは緻密なチーム・ビルディングの真っ最中だったからかもしれない。大一番が近づいた今、これまでの積み重ねをいかにピッチで発揮するかが最大のテーマだ。もはや求められるのは、職人の顔ではなく、勝負師の顔だ。

監督の姿勢を、選手はよく観察している。4年間で築き上げたものを信じるというポジティブな思考は、必ず選手にも伝搬するだろう。個人的には危機管理を優先して、追加で右サイドバック1名を合宿に招集すべきだと考えていたが、それは無用な混乱を招いたかもしれない。今回のザックの楽観的メンバー選考により、チームが一体となるベースができた、と個人的に分析している。

もちろん2006年W杯時のように、不測の事態の連鎖が起こらないとは限らない。そのときは今野泰幸や伊野波雅彦をサイドバックに起用するという構想をすでに用意しているのではないだろうか。

内田が100%の状態で初戦を迎えられるのが最も望ましいが、そうでなかったとしても、いるだけでチームに計り知れないプラスをもたらす。2002年W杯では中山雅史と秋田豊が、2010年W杯では川口能活が経験をもたらすベテラン枠で招集され、縁の下の力持ちになった。だが、今回そういう枠は必要なかった。内田の存在は、右サイドバックとしての重要な戦力になるだけでなく、4年間の積み重ねのシンボルになる。

木崎 伸也 スポーツライター

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きざき しんや / Shinya Kizaki

1975年東京都生まれ。中央大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程修了。2002年夏にオランダに移住し、翌年からドイツを拠点に活動。高原直泰や稲本潤一などの日本人選手を中心に、欧州サッカーを取材した。2009年2月に日本に帰国し、『Number』『週刊東洋経済』『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『フットボールサミット』などに寄稿。おもな著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『クライフ哲学ノススメ 試合の流れを読む14の鉄則』(サッカー小僧新書)など。

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