ただし、どんなチームに入ったとしても、どんなに考えが合わない監督が来たとしても、信頼を勝ち取って結果を残すのが真に優秀なプレーヤーだ。
指揮官との考え方の違いを差し引いたとしても、なぜ香川はマンチェスター・ユナイテッドでここまで苦戦しているのだろう?
それを考えるには、まず選手としての「武器」をきちんととらえる必要がある。
香川の武器は、世界トップクラスの「敏捷性」と繊細な「ボールタッチ」だ。しなやかな体を生かして小刻みにステップを踏むことができ、スタンドから見るとひとりだけ早送りしているかのようだ。ボールを受ければ、細かくタッチしながら、くるっと反転して相手をかわしてしまう。
ボールを細かくタッチするメリットは、相手の出方に応じて、瞬時にボールをほかの方向に移動できることだ。ヴァンフォーレ甲府の城福浩監督は「サッカーで最も大事なのは、プレーをぎりぎりで変更できる能力」と語る。香川には、まさにその能力がある。
香川はサラブレッド
川崎フロンターレの風間八宏監督は、フジテレビの解説者時代、香川のよさをこう説明していた。
「香川は相手の届かないところに仕掛ける。そうすると相手は反応するしかない。香川はその反応をよく見て、相手の動きの逆を突くことができる。だから狭いところでも、相手につかまらないのです」
ボールを持っているときも、持っていないときも、香川の身のこなしは実になめらかだ。前に行こうとして相手がついてきたら、踏ん張ることなく柔らかいステップで方向転換することができる。代理人のトーマス・クロートが「シンジのような才能は、今後しばらく日本から出て来ないだろう」と絶賛するのもうなずける。
「動き分析」のプロのトレーナーから見ても、香川はサラブレッドだ。これまでプロ野球、Jリーグ、ゴルフなど、あらゆるスポーツに携わって来たトレーナーの西本直はこう分析する。
「香川選手のドリブルやターンの動きは、頭を動かさず、身体を振り子のように使っています。糸で頭を上に引っ張られて、それより下の部分が前後左右に自在に動くイメージです。こういう体の使い方をすると、どちらの方向にも素早く動くことができる。相手は対応しにくいですよね。どちらへでも切り返せて、いつでもシュートが打てるという体勢です」
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