10代スマホ所有率「うつ・自殺」との不吉な関係 「常時つながっている」ことがもたらす危険

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そして、そういった散歩には1人きりで行こう。物理的に1人になるためにという意味だけではない。可能なら携帯電話も置いていくことだ。ヘッドフォンを耳に入れていると、あるいはテキストメッセージのやりとりを追っていると、あるいは──これは絶対にだめだ──“散歩中継”をインスタグラムに投稿していると、それは1人で歩いていることにはならず、したがってこの戦略の最大のメリットを経験できない。

何らかの必要があって携帯電話を置いていけないときは、バックパックの一番底に押しこんでおこう。そうすれば緊急時には頼れるが、退屈になりかけたからといって即座に引っ張り出すことはできない。

散歩に行けば生産性も向上する

この習慣の最大のハードルは、時間を取ることだ。私の経験からいえば、何らかの努力をしなければ必要な時間を確保できない。空白の時間が自然に生まれてくることはまずない。つまり、例えば、仕事のある日はあらかじめカレンダー上でその時間を確保しておくとか(散歩は1日を始める、あるいは終えるのに最適の習慣だ)、家族と相談して、夜や週末に1人でハイキングに出かけられるようにするとか、何らかの事前の準備が必要だ。

また“好天”の定義を広げておくといい。寒かろうと、雪が降っていようと、歩くことはできる。小雨くらいなんでもない(MIT時代、私は質のいい防水パンツのありがたみを身をもって知った)。

かなりの努力が必要だが、得られるものはその分大きい。定期的に散歩に出かけているとき、私は純粋に幸福な気持ちでいるし、生産性も──明らかに普段の何倍も──高くなる。現代の人々も歴史上の人々も、慌ただしい毎日にかなりの分量の孤独を注入することから、同じメリットを得ている。

思想家のヘンリー・ソローはかつてこう書いた。

「1日に少なくとも4時間──大概はそれ以上──世事から完全に解放されて森や丘や野原を心の赴くまま歩くことができなければ、私はおそらく心身の健康を保てない」

多くの人は、ソローほど散歩に生きがいを見いだすことはないだろう。しかし彼と理想を共有し、無理のない範囲でできるかぎりたくさんの時間を確保して“高貴な芸術”たる散歩に精を出せば、私たちもきっと、心身の健康を維持していけるはずだ。

カル・ニューポート ジョージタウン大学准教授

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Cal Newport

1982年生まれ。ダートマス大学で学士号を、マサチューセッツ工科大学(MIT)で修士号と博士号を取得。2011年より現職。学業や仕事をうまくこなして生産性を上げ充実した人生を送るためのアドバイスをブログ「Study Hacks」で行っており、年間アクセス数は300万を超える。著書に『今いる場所で突き抜けろ!』や『大事なことに集中する』などがある。TwitterやFacebook、Instagramのアカウントは存在しないが、家族と暮らすワシントンDCやウェブサイト「calnewport.com」で彼にコンタクトすることができる。

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