STAP細胞「女性・30歳」報道は日韓だけ? なぜ年齢と性別が、これほど重視されてしまうのか

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お国柄が見える報道の姿勢

対照的だったのが韓国です。「東亜日報(電子版)」はソウル発の第一報は年齢のみですが、東京発では朝日新聞から写真の提供を受け、日本と同じ割烹着の写真がバーンと載っています。タイトルもいきなり、「日本、30歳の女性科学者、第3の万能細胞開発」。しかも割烹着の説明も、デートのときも研究のことを考えているという話も同じ。さらには、日本の理系にいかに女性が少ないかを紹介し、彼女の活躍が偏見の打破につながるとの日本の議論を紹介しています。「中央日報(電子版)」は最初の報道では、年齢・性別を明らかにせず、後日、逆に日本のテレビなどの騒ぎを顔写真入りで報じています

韓国は日本以上に年齢秩序の強い社会で、わずかな年齢差でも年上の人に敬語を使うルールがあります。日本では組織の加入年次が年齢に優先する原則になることが多い(例:2浪の大学1年生は、現役合格の2年生に敬語を使う)のに対し、韓国は絶対的な年齢の影響が、日本より若干強くなります。したがってやはり「30歳」は「驚き」になる

また日本同様、性役割規範の強い社会なので、「女性」が見出しに必要なのです。私が見た限りの報道で、年齢と性別両方に着目したのは、やはり日本以外では韓国だけでした。

要は一連の日本の報道は、いかにこの社会に年齢による序列化と、性別に基づく差別・区別が存在しているか、ということの見事なまでの「裏返し」となっており、私が最初に感じた「なんだかなぁ……」という違和感も、そんな背景から来るものなのです。差別の裏返しだとすれば、「年齢」と「女性」の強調には社会的意味もあるのでしょう。でもやはり研究者は、年齢や性別とは無関係に研究で評価してほしい。だからメディアもゴシップではなく、きちんとした科学的な解説をしてほしい、と私は思います。本気で理系を目指す女性を増やすためにも

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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