シンクタンクがこれからの日本に必要な理由

三浦瑠麗「戦間期的な危うさを感じる」

騙されたのではなく、官邸や経産省や防衛省・自衛隊のトップも本当の情報がわからなかった。だから事態をつかめなかった。そのことが衝撃でした。おそらく、危機とはそういうものなのでしょうが、“戦場の霧”ならぬ“危機の霧”のようなものだったのでしょうが、そのときの無念さが出発点です。すでにその前年(2010年)の12月、新聞社を辞めていましたから、新聞でやるわけにはいかない。だから、自分たちで民間の調査委員会をつくり、真相を究明したいと思ったのがきっかけです。

30人以上の専門家を集めて民間の事故調査委員会を立ち上げました。ただ、先立つものがなかった、2011年の夏に、近藤さん(近藤正晃ジェームズ)と2人でさまざまなところを駆け回り、金策をしながらその年の9月、シンクタンク(日本再建イニシアティブ)をつくったという次第です。まあ、瓢箪から駒みたいなものですね。

三浦:そうでしたか。事故調をおやりになって、政府や東電の危機管理についてどう思われましたか。

最悪のシナリオを考えない日本

船橋:日本という国は、「最悪のシナリオ」を考えることができない国なんだなと痛感しましたね。有事について、日頃から考えることに抵抗がある。有事のときは、何事も優先順位をつけなければならない。危機になれば、その優先順位は受けいれられるのでしょうが、それを平時のときに決めるとなると、政治的、経営的、社会的、心理的に抵抗があるのかもしれません。だけど、そういう国はいざというときには戦えない。

三浦瑠麗(みうら るり)/1980年、神奈川県生まれ。国際政治学者。幼少期を茅ヶ崎、平塚で過ごし、県立湘南高校に進学。東京大学農学部を卒業後、同公共政策大学院及び同大学院法学政治学研究科を修了。博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師を経て、山猫総合研究所代表取締役。博士論文を元にした『シビリアンの戦争――デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)でデビュー。近著に『21世紀の戦争と平和――徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)。「朝まで生テレビ!」、「ワイドナショー」などテレビでも活躍する一方、旺盛な執筆、言論活動を続ける。第18回正論新風賞受賞。『孤独の意味も、女であることの味わいも』は初の自伝的著作である(撮影:梅谷秀司)

日本にとっての「最悪のシナリオ」を政府が描かないのなら、その対応策を示さないのなら、それこそシンクタンクがやるべき仕事ではないかと思いました。そこで、民間事故調の後、『日本最悪のシナリオ 9つの死角』(新潮社、2013年)を、それから『人口蒸発「5000万人国家」日本の衝撃』(新潮社、2015年)を相次いで刊行しました。原発・核、防衛・安全保障、人口・少子高齢化にとどまらず、サイバー、AI、ビッグデータ、財政と金融、雇用・賃金・外国人労働者など国家危機につながりかねない大きなテーマに正面から向かい合い、政策とガバナンスの両面から問題を浮き彫りにし、代案を出すことのできる政策研究と政策提案と政策起業を行うことのできるシンクタンクが必要だと思います。

三浦:同感します。いろいろな課題についてプロジェクトを作って、書籍を出版されていますが、それをどのようにして政治に届けようとされているのでしょうか。

船橋:まず、一般の市民に語りかけること。そこがいちばんの任務だと思います。ですから、プロジェクトの成果は基本的にすべて商業出版することにしています。

それから、本を出版した後に、公開イベントを行い、そこに政治家の方々をお招きし、パネリストになっていただくといった形でアイデアや提案を政治プロセスに差し込むことをやっています。

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