シンクタンクがこれからの日本に必要な理由 三浦瑠麗「戦間期的な危うさを感じる」

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その上に、日米関係の変質があります。従来、日本はベトナム戦争のときのように、紛争に巻き込まれるリスクを警戒してきました。しかし、これからは、日中軍事紛争の火種となった尖閣諸島問題のように、日本自体が紛争当事者になるリスクを背負い込むことになりました。そこで有事になった際、アメリカがどこまで守ってくれるのか? アメリカに見捨てられるリスクもありえます。トランプ大統領が、日米同盟を真剣に守ってくるかどうか、気がかりですよね。

ですから、日中関係が悪化したとき、動揺せずに、自ら国を守りながら、政治、外交などあらゆる政治、外交資源を使いながら、中国のリスクを見据えつつ、中国を敵視することなく、創造的な自主外交を模索しなければなりません。歴史的に日本が失敗してきたのは、外交、とくに近隣諸国との関係の調整です。今の国際情勢を見ていると、1920年代、30年代に近い怖さを感じます。2010年代は歴史の大きな分水嶺のような気がします。

もう1つ心配なのは、人口構成と社会保障の問題です。負担と受益のバランスはすでに崩れています。世代間対立は激化していくでしょう。若い世代の声を的確に政治に反映していかなければならない。新しいアイデアと新しい政策が必要です。ここにも、シンクタンクの役割があると思います。

「ちょっと待った」という声が欠けている

三浦:私も、二大政党ができて政権交代が恒常化すれば問題は解決するとは思わなくなりました。戦間期的な危さも感じています。これは世界全体について言えることですね。資本主義に対する信頼が弱まり、異質な勢力に対する脅威感が高まっている。左派ポピュリズムは二つの意味から危険です。ひとつには、グローバル化や資本主義に逆行したり、根底から否定しかねないこと、もうひとつには、右派ポピュリズムを活性化させる呼び水となりうることです。

日本には、学者やジャーナリストを含め知識人が戦争を止めようとしなかったという苦い歴史があります。今は、大衆の欲望が見える化されたことに伴って、エリートの知的体力の低下を感じます。例えば、韓国のレーダー照射問題のときも、普段はまめにツイートしている野党のリーダーがまったくそれに関してツイートしなくなった。それでは、野党はフォロワーでしかないということになります。

政治家だけではありません。韓国との関係に関しては、知識人がごく静かになりました。今回の韓国に対する輸出優遇見直しの対抗措置に対しても、メディアや学界で議論らしい議論はありません。大衆にアピールする努力を怠ってきたのに、肝心なところでは大衆に迎合する可能性があります。日本の社会にはそういう知的体力と覚悟を持った人材が根源的に欠けているんじゃないかという不安を覚えます。

船橋:同感です。そういう個の力を発揮できる人、リスクを取って発言する人が出てこなければだめですね。最初に戻りますが、大切なのは、三浦さんのように個のコラムを立て、独立思考で考えて、自分の意見をしっかりと表明して、そのうえで議論することだと思います。政策起業力にとって必要なのはそうした個々の考える力であり、個々のイニシアティブであり、個々のリスク・テーキングな挑戦だと思います。

今日は、面白いお話をたくさんありがとうございました。

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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