ヴィッセル神戸が目指す「アジアNo.1」への道 今季2度の監督交代、成績も低空飛行続くが

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三木谷オーナーのサッカーへの熱い思いを表すエピソードもある。毎日のように三浦SDと三木谷オーナーはコミュニケーションを取っており、時には食事中にワインを片手に6時間、戦術論をぶつけあったこともあるという。「理想に向かってこのクラブを作っている。オーナーとの考え方の違いも感じない」と三浦SDは強調する。

一方、ヴィッセルが変えようとしているのは、トップチームだけではない。アカデミーの改革にも着手している。クラブのフィロソフィーをアカデミーから一貫させ、子どもの頃からバルセロナのようなスタイルに慣れ親しんだアカデミー出身者が将来、トップチームで活躍する。そのための土壌を作りにも取り組んでいるのだ。

とはいえ、現在のトップチームには、イニエスタをはじめ、トップ・オブ・トップの海外選手がスタメンを占めている。外国籍選手が最大5人まで同時に出場できるJリーグの中でアカデミー出身選手をトップチームで起用するのは難しいのではないか? そうした疑問に対して、三浦SDはきっぱりと否定する。

「勘違いしないでほしいのですが、小学生の頃からわれわれのスタイルを学ばせて、トップに昇格する選手を増やしていきたい、という考えはありますが、トップに上がるということは、そんなに甘いものでもない。

それに、うちのトップに昇格させることだけが育成の役割というわけでもありません。今季、2人の選手がアカデミーから昇格し、すでにデビューを果たしました。それはすばらしいことですが、うちのトップに上がれなくても、ほかのクラブから『ヴィッセルのあの選手いいな、トップに上がらないなら、うちがとろう』と言われるのも、アカデミーの成果だと思います。

チャンスは与えるものではありません。自分の力でつかみ取らなければならない。そうした育成に対する考え方は、ブレずにやりたいです。外国籍選手が5人いるから、試合出場が簡単ではないということは正直、問題とは思っていません。プロの世界では当たり前のことだと思います」

アジアナンバーワンへの挑戦は始まったばかり

7月12日時点でJ1・13位という結果にあるヴィッセル神戸。昨シーズンが10位だったことを考えると、クラブのスタイルを変え、勝てるチームへと変貌するのは決して簡単なことでないことがわかる。

「ヴィッセルには本当に優秀なスタッフが現場にも事業側にもたくさんいます。彼らをうまく回すことができれば、他クラブや中国のクラブに負けない組織を作れると思っています。だから、本当に信念をブラさず根気強くやりながら、スピード感も重視して、強いクラブにしていきたい。そう思っています」

クラブ発足時からいまだタイトル獲得経験のないヴィッセル神戸にとって、タイトルを1つ手に入れることが当面の目標になってくる。そして、その先にはACL(AFCチャンピオンズリーグ)を制覇し、名実ともにアジアナンバーワンクラブとなるという野望がある。

まずは、フィンク新監督のもとで今シーズンをどのように戦っていくのか。スピード感をもってクラブ改革を進めるには、ここで足踏みするわけにはいかない。

第1部終わり、「クラブ経営編」と「アカデミー編」に続く。(文中一部敬称略)

飯尾 篤史 スポーツライター

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いいお あつし / Atsushi Iio

東京都出身。明治大学卒業後、サッカー専門誌の編集記者を経て2012年からフリーランスに転身、スポーツライターとして活躍中。『Number』『サッカーダイジェスト』『サッカーマガジン』などの各誌に執筆。著書に『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成に岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(ベスト新書)などがある。

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