「パワハラ防止法」成立を手放しで喜べないワケ 「下から上」のハラスメントにも要注意

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コミュニケーションの基本は、「察する」といった相手に判断基準を任せてしまう表現を避けることが重要です。例えば「ちゃんと準備して」や「後で報告して」といったようなやり取りは具体性がなく、感覚で判断することになるため、受け手によって大きく認識がずれてしまいます。

「後で」を5分後と捉えるか、翌日でもいいと捉えるかは、その時のそれぞれの状況や感覚に左右されてしまいがちで、認識が違うことによって、自分の意向に相手の行動が沿わない場合にイライラを引き起こします。

そういったささいなやり取りが繰り返されることにより、「あいつは使えない」とか「あの上司は自分勝手だ」などの意識が深まり、お互いの信頼関係にひびが入ってきます。すると、組織内では、上から下だけではなく、下から上にもハラスメントが起こりやすい土壌が生まれてしまうのです。

相互理解とコミュニケーションスキルの向上が大切

実際に、私が手がけている研修内容の中でも「気持ちを受け止める聞き方」「行き違いを防ぐ伝え方」は、パワハラ防止に効果を上げています。

部下を持つ管理者だけが必要なスキルではなく、部下側にも必要です。なぜなら、単なるコミュニケーション不全をパワハラと騒ぎ立てたり、義務を果たさずに権利だけを主張するケースが増えているからです。

上司も部下も、お互いに相手に伝わる表現を身に付け、相互理解することが重要です。すれ違いを防ぐやり取り、修正を可能にするタイミングを活かすことが、パワハラに限らず、すべてのハラスメントの防止に必要なのは明らかです。

コミュニケーションスキルの向上こそが、抑止強化につながることを認識していただければと思います。

ある意味、脅迫のようなパワハラ教育の浸透が、新たなパワハラを生まないことを切に願います。

大野 萌子 日本メンタルアップ支援機構 代表理事

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おおの もえこ / Moeko Ohno

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)がある。

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