「幼稚園から物書き目指した」芥川賞作家の努力

アスリートのように執筆する上田岳弘の流儀

人生経験を積むために会社に入ったという上田さんだが、そのことは作品を書くうえで具体的にどのような影響を及ぼしてきたのだろうか。

「普段小説を書いていない時間は、世の中で起きている事象に対してあれこれ思考しながら、創作活動の『エンジン部分』を鍛えています。そのエンジンに当たるブラックボックスは、『私の人格』であり、『私そのもの』だといえるかもしれません。

小説を書くときは、このブラックボックスの中に自分が関心を持っている素材を投入して、文章というアウトプットを生み出します。仕事をするときもこれと同じブラックボックスを使い、仕事に関する素材を注ぎ、仕事に関するアウトプットを生んでいます」

多角的にブラックボックスを鍛える

昨今世間で副業・複業の推進が加速する中、複数の分野にまたがって仕事をすることで視野や思考の広がりが生まれることが1つの利点として取り上げられる。そのことは、上田さんの仕事のやり方にも共通するところがある。

「鍛える角度は、たくさんあったほうが、よりいいブラックボックスができると思っています。1つの方向から考えるだけでなく、複数の方向から刺激を与えることでブラックボックスの鍛錬が極まっていきます。そうした意味で、私のブラックボックスは小説を書く以外の部分も太っているかもしれません」

上田さんは日頃から多角的に「ブラックボックス(=上田さんの人格)」を鍛え上げることで、連続的に独創性に富んだ作品を生み出し、過去にも他に類を見ない作家になっているのだと感じさせられる。

朝5時半から7時半までが執筆の時間だ(撮影:今井康一)

「作家」といえば、都会の喧騒から離れた別荘にこもり、生みの苦しみと向き合いながら作品を生み出すという古典的なイメージを抱く人も少なくないだろう。

それに対して、日頃から鍛錬したブラックボックスを創作エンジンにして、次々に小説を書き出す上田さんの執筆スタンスは、小説家というよりむしろ「アスリート」に近い。

「『ニムロッド』の場合は休みをとって書きましたが、普段は朝5時半から7時半まで、毎日ルーチンで書いています。もちろん、書いていて調子がいいときもあれば、そうじゃないときもあります。

ただし、ルーチン化したほうが、確実にものができます。たとえ完成度は低くても、ものができていればブラッシュアップすることができます。まずはものをつくらない限り、よくすることもできません。ダメだったら捨てればいいし、やりようがあったら磨けばいいのです」

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