「幼稚園から物書き目指した」芥川賞作家の努力

アスリートのように執筆する上田岳弘の流儀

上田さんの歴史に話を戻すと、幼いながらに大人と一緒にドキュメンタリー番組に触れ、漠然と伝える仕事をしたいという思いを胸に抱いてから、最初に筆を執ろうとしたのは中学2年生のときだった。

「当時、原稿用紙を買ってきて書こうとしたら、まったく書けませんでした。それからしばらくブランクがあり、大学3年生になって世間で就職活動がスタートし、働くことを意識しだしたときにもう一度書き始めました。それ以来、アルバイトをしながら2年ほど小説を書いていたように思います。ただ、その頃は無理やり書いたものの、内容はグダグダでした」

中学生のとき、書こうとして1文字も書けなかった。就職を突きつけられ、一念発起して書き出しても納得のいくものが書けなかった。そんな上田さんは、その後いかにしてメキメキと筆の力を身につけていったのだろうか。

200~300冊の本を読んだ

「書けないけれど、書けないはずはない。そう思っていました。ただ、書くためには、自分にはいまいち何かが足りない気がしていたのです。そこで、読書経験が足りないから、まず修業だと思って古本屋に行き、名前を聞いたことがある作家の本を片っ端から200~300冊買ってきて読み込みました。

中でもいいと思った夏目漱石、ウィリアム・シェイクスピア、フョードル・ドフトエフスキーなど足りないものは新品でも買い揃えました。そうこうするうちに、23歳くらいのときに文学賞の最終選考に残ることができたのですが、結果的に選ばれることはできませんでした。そのとき、まだまだ自分には人生経験が足りないと感じ、社会で働いてみようと思ったのです」

会社通いと作家業、二足のわらじを履いている(撮影:今井康一)

その後、上田さんは現在も所属しているIT企業に就職する。会社員としての人生経験を積み重ねながら執筆を続けることで、2013年に『太陽』で第45回新潮新人賞を受賞し、作家デビューを果たす。

「やりたいことが見えている以上は、できるはずです。やりたいことと、今のやれない自分のギャップを埋めていけばいいのです。そのためには、『自分がどういうことをやりたいのか』というビジョンを持つことと、現状との差分を埋めるために『今の自分に足りないものが何か』がわかるようにならないといけません」

理想と現状との隔たりを冷静に見つめ、1歩ずつにじり寄りながら目標を実現させてきた上田さんの言葉には、並々ならぬ説得力がある。

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