老人ホームに入居する人は「人生の負け組」か 元介護職員が明かす「老人ホーム」のリアル

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というような現実から、子どものいない高齢者の場合、身元引受人を選定することは容易ではありません。そこで、専門家に依頼し身元保証に関する商品を作ってもらい、引き受けを実現させたことがあります。そのとき、想定外のことが起こりました。

それは、子どものいないひとり高齢者を対象にした商品にもかかわらず、ニーズのかなりの部分を子どもがいる高齢者が占めたのです。要は、「子どもはいるが、子どもの支配下に入るのは嫌だ。だから、老人ホームに入居した後も、子どもとは一定の距離をおいていたい」というニーズなのでした。もっと言うと、自分の財産を自分がどう使おうと子どもにとやかく言われるのは嫌だ、という高齢者が想定外に多かったのです。

つまり、子どもの世話にはなりたくない、子どもから生活に関する支配を受けたくない、自由に暮らしたい、という高齢者は、みなさんが考えている以上に存在しているということではないでしょうか。家族仲よく3世帯同居の大家族。このような生活スタイルが高齢者の幸福であるというのとは違う価値観も多くあるのです。

老人ホームでの生活は、プライバシーがない?

老人ホームでの生活は、プライバシーがなく、人やルールから束縛される生活。そう感じている読者も多いと思います。

多くの老人ホーム否定派から発せられる話の中には、「拘束されるのは、まっぴらごめん。自由に好きなように生きていきたい」と言います。たしかに、老人ホームでの生活は、老人ホームの都合に支配されるケースが目立ちます。

特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームの場合は、このことは顕著に表れます(詳細は拙著『誰も書かなかった老人ホーム』参照)。食事時間や入浴時間など一日のイベントの多くは、ホーム側の都合で決定され、入居者はその都合に合わせなければなりません。

そうはいっても、荒唐無稽な時間帯にイベントが設定されているわけではないので、ホームの都合に合わせることは、今まで普通の生活を送ってきている人にとってはストレスにはなりません。私も経験がありますが、作家の入居者などの場合や、昼夜が逆転して生活をしている人などの場合、介護付き有料老人ホームでの生活は慣れるまでには苦労をしそうです。

ここで読者のみなさんによく考えてほしいのは、プライバシーの侵害と安全安心の確保は両立させることが不可能に近い、という事実です。多くの老人ホームの運営方針は、入居者の安全安心を最優先させることにあります。安全安心を最優先するためには、個人のプライバシーは、一定レベルで犠牲になるのはやむをえないことだと思います。

その昔、私が働いていた老人ホームは、ホーム内のすべてのところに監視カメラ(当時は「見守りカメラ」と言いました)を配置し、職員が業務を行う管理室で一元監視をするスタイルをとっていました。当然、全居室内もモニターできます。この見守りシステムのおかげで、入居者や家族に絶大なる信頼を得、高水準の入居率を誇っていたのも事実です。働く介護職員側も、このカメラのおかげで心配事を軽減することができました。

例えば、人手が極端に少なくなる深夜帯などで心配な入居者がいる場合などは、カメラの設定を変えて、重点的にその人のモニタリングで様子を観察することが可能でした。つまり、カメラの存在は、職員ひとり分程度の労力を持っていたと思います。多くの入居希望者やその家族に対し、このカメラ監視の仕組みを説明すれば、「入居させてください」「母をお願いします」と言われたものでした。

しかし、時代の流れとともに個人のプライバシーに関する認識が変わり、保険者である行政からは、「このカメラは入居者のプライバシーを侵害している」と言われ始めました。当時、私は、本社スタッフとして行政と協議をしていましたが、行政からは「入居者全員から同意書をもらうこと」という条件をつけられました。

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