昇格した途端「偉そう」に振る舞う上司の心理 「意識高い系」の上司と部下の溝が深まる理由

拡大
縮小

「変化への拒絶」には、潜在意識に変化への恐怖があることも影響しています。太古の昔、生きながらえるためには、大雨も降らず、獣に襲われることもなく、「昨日と変わらない今日」を同じように迎えることが最善だった頃の名残です。

何人もの心理学者が、人間は集団になった途端、変化をより強く拒むという性質について考察しており、変化を与えられる者にはとくにこのバイアスが強く働きます。

「静か」に反旗を翻す

ゆえにチームは一度作ったルールを変えたがらず、それを変えようとするリーダーに対しては「現場のことがわかっていない」「勝手に決めつける」と静かに反旗を翻すのです。

反旗があからさまに翻ることは滅多にありません。その背景には、部下たちが有する「受け身の攻撃性」という特徴があります。

部下は上からの指示に対して「はい」と答えながら、内心でリーダーを厳しく採点することがあります。これが「受け身の攻撃性」と呼ばれる心理で、敵意と否定を微笑みに包み込んで隠すのです。これは一見おとなしいようですが、紛れもなく言葉にならない攻撃です。

そして、この「受け身の攻撃性」によってある部下がリーダーに敵対心を抱くと、チーム内でそれが瞬く間に広まることが予見されます。「集団心理」の作用によって、感情が同一組織内でウイルスのように感染するのです。

「集団心理」という考え方は、19世紀にフランスの社会心理学者ギュスターヴ・ル・ボン氏によって定義されました。

集団の中で個人は変わります。育ってきた環境や教育などによる「その人らしさ」が、集団の中ではぼやけてしまうのです。

そして、その人の個性が薄まると、集団全体の「性格」のようなものが形成されます。やがて個性が消え、自分で判断しなくなり、暗示されやすく流されやすくなります。そのためチームの人たちが同じような感情になったり、考え方が似通ったりするわけです。

さらにル・ボン氏は「集団は真理を追究するよりも、錯覚を求めている」と指摘します。つまり「正しさ」は二の次、三の次というわけです。

・個人としては賢い人が、なぜか「カルト宗教の教祖」に従ってしまう
・ごく常識的だった市民が、「危険な政治思想の指導者」に熱狂する
・思慮深い社員が、社長の命令で「賞味期限切れの食品」を出荷してしまう

例は、枚挙にいとまがありません。いくらリーダーが論理的には正しいことや正論を言ったとしても、受け入れられず拒絶されることがあるのは、集団心理による作用が大きいといえます。

イェール大学の社会心理学者、アーヴィン・ジャニス博士は、集団心理が強くなる要素として次の3つを挙げます。

次ページ3つの要素とは?
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT