「口下手の人」が実はプレゼンで有利な深いワケ スピーチのプロが語る「言葉の選び方」の極意

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「私たち」という言葉。これを言った瞬間に、あなたはまだ相手のことを仲間だと考えていることがわかる。お互いが、離れていないことを一瞬で表現することができます。

日本語での会話では普段、主語を付けて語ることは多くありません。自分の立場や考えを主張するときだけ、「私は」「僕はね」などと語っているはずです。

しかし、聞き手を巻き込み一体感をつくりたいとき、私とあなたは1つのチームなんだと潜在的に語りかけたいとき、「私たちは」という主語は、大いに役に立ちます。

「同じ仲間」であることを意識させる

「私たち」をスピーチに多用したのはオバマ前アメリカ大統領でした。個人のリーダーシップが問われる大統領選挙で、「We(私たちは)」、「оur(私たちの)」、「us(私たちを/に)」、「ourselves(私たち自身を/に)」といった言葉を多く用いて、有権者に当事者意識を持たせることに成功しました。

これが話題になり、日本の政治家も多くが「私たち」と語るようになり、飛行機の機内アナウンスも「私たちの現地到着時刻は……」と変わっていきました。

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口下手のままでも相手に伝わる簡単なコツとして、「私たち」を多用する。会社の小さな会議でも「私たちのプロジェクトは……」「私たちの今後のスケジュールは……」「私たちはこれからどうすればいいのか……」と語ることで、参加者に当事者意識を醸成する。

コミュニケーションの場では、つねに「同じ仲間」であることを意識させましょう。

反対に、二人称を複数形にしてはいけません。「あなたがた」「あなたたち」ではなく、「あなた」を使いましょう。

大学教授の話を聞いていると、「あなたがた」と複数形で呼びかける人が多いことに気がつきます。授業など、大勢の学生に語りかけることが多いため、つい、複数形を使ってしまうのでしょう。

「あなた」というズバリ人を指す言葉のインパクトはありません。

しかし、二人称の複数形は、一人称とは逆に、聞き手から当事者意識を奪ってしまいます。「あなたがた」と呼びかけられても、「私以外にも人がいるんだな」と思うばかり。

大勢の人がいる場合でも、使うのは「あなた」。これをもっと効果的に使うには、「今、眠いと思っているあなた。面倒だなぁと感じているあなた。忙しいんだよ!と文句を言いたいあなた。いろいろ不満もあるでしょうが、この課題はやってもらいます!」と、「あなた」を具体的に示すことで、多くの人に呼びかけていきます。

言葉の中で、最も人の心に響くのは名前です。その名前に変わる人称代名詞は、使い方次第で、相手を巻き込み、参加者全員に当事者意識を持たせる魔法の言葉なのです。

ぜひ、効果的な使い方を覚えてください。

ひきた よしあき コミュニケーション コンサルタント、大阪芸術大学放送学科客員教授

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Yoshiaki Hikita

早稲田大学法学部卒業。博報堂に入社後、クリエイティブディレクターとして数々のCMを手がける。行政、大手企業などのスピーチライターとしても活動。幅広い業種・世代間のギャップなどを分析し、コミュニケーション能力が高まる方法を伝授する。また、大阪芸術大学、明治大学、慶應MCCなどで教え、「はじめて『わかった!』と心の底から思えた講義」「一生ものの考える力が身につく」と支持を集める。教育WEB「Schoo」では毎回事前予約が約20,000人集まるほどの人気ぶり。著書に『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』(大和出版)など。

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