アナリティクスは人事をどう変えるのか? アナリティクス全盛時代の人材マネジメント(上)

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エンゲージメント向上施策はアナリティクスにより新たな局面に

従来は、このエンゲージメントの向上施策の検討にあたっては、全社共通の施策を提供することを前提に、効果というよりも、施策のやりやすさやコスト制約から決められることが多かった。最近は、ここにアナリティクスの手法を融合することで、より効果の高い施策の組み合わせを実現できるようになってきている。

そのひとつが、マーケティングリサーチで活用されるコンジョイント分析を利用する手法である。コンジョイント分析とは、商品開発時に、製品の価格や色、デザイン、品質など新商品にどのような特性を持たせれば顧客満足が高まるかを、定量的に検証するための手法だ。

長年、離職率の高さに悩まされてきたあるグローバル企業のケースを見てみよう。この会社は世界40カ国にコールセンター拠点を展開していたが、離職率は年間140%を超え、3.5万人のスタッフを維持するために年間5万人近くの新規雇用を行っていた。人事部では、離職率が高い主要な原因が待遇に対する不満であるととらえて、福利厚生施策や給与制度に対する満足度と、新たな福利厚生サービスに対する希望状況を調査した。その結果、今まで間違った「思い込み」で設計されていたこと、国ごとに給与・福利厚生の施策上、重視しているものが異なるということがわかり、あらためて給与・福利厚生の施策の最適な組み合わせをパッケージし直した結果、従来とほとんど同じ予算の枠内で、離職率は従前の140%から40%程度に抑制され、採用およびトレーニングコストも年間1400万ドル分の削減につながったという。

アナリティクスは習うより慣れろ

今回、紹介してきた事例は、Googleのような先進企業だからできる、グローバルで展開する大企業だから可能というものではない。すでに日本企業の人事部もしくは事業部門は、実は豊富なデータを持っているものだ。採用時に取った個人別のデータを何も使わないまま放置してないだろうか? また、分析についても、今や数多くの分析ベンダーがおり、比較的低予算で実施可能だ。また一見、ボトルネックになると思われるデータを分析する人材(データサイエンティスト)の確保についても、実は社内で解決することも可能だ。たとえば一時的にマーケティング部門で市場調査・商品開発にいそしむメンバーにサポートしてもらい、今度は従業員を顧客と見立てて、よりよい人材マネジメントのあり方を分析してもらえばよいのである。アナリティクスと聞いて、「人事部門には無縁の世界」と立ちすくむ前に、まずはすでに社内にあるデータや人材でクイックに実践し、その後、より本格的なタレントアナリティクスに取り組んでみてもよいかもしれない。

<筆者プロフィール>

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 組織・人材戦略グループシニア・プリンシパル 作佐部孝哉

1994年アクセンチュア入社。人材・組織戦略チームのリーダーとして、世界的な自動車メーカーや、消費財メーカーなど、国内外で数多くのグローバルリーダー育成の責任者を担当。近年はサービス開発責任者として、「人材アナリティクス」や、「国・企業の境界を超えたコラボレーション」といったITと人材を掛け合わせたテーマを中心に手掛ける。共著に『新興国進出のためのグローバル組織・人材マネジメント』(東洋経済新報社)がある。

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 マネジャー 内藤 靖統

2004年アクセンチュア入社。メーカーや流通小売業を中心に、事業戦略立案、全社改革の変革マネジメント、次世代経営者育成等のコンサルティングプロジェクトに従事。近年では日本企業の新興国における人材マネジメントおよび統計的手法の活用による人材マネジメントの高度化を支援。

参考文献:
 Journal of business strategy
 Competing on talent analytics
 Moneyball at work
 Workforce of one

アクセンチュア 経営コンサルティング本部
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