トランプの「非常事態宣言」は憂慮すべき問題だ 社会の2極化の中、肥大化する大統領権限
「大統領は国王のように振る舞ってはならない」。2019年2月18日、ニューメキシコ州のヘクター・バルデラス司法長官(民主党)は、トランプ大統領の非常事態宣言を権力の乱用であると批判した。ニューメキシコ州を含め民主党の司法長官のいる16州が同宣言に対し集団提訴を行っている(メリーランド州以外は州知事も民主党)。
ねじれ議会で政治がこう着状態に陥っていたオバマ前政権下でも、さまざまな政策が大統領令で実行されていたことから、当時、共和党はオバマ大統領を「オバマ王」と揶揄していた。そのときの状況にやや似ている。今日、同様にねじれ議会に直面しているトランプ大統領は選挙公約の「壁建設」を実現するために、非常事態宣言で追加費用の捻出を試みた。
建国の父が築いた3権分立において、非常事態宣言は、これまでも大統領による権力乱用の抜け穴となってきた。行政権が拡大しすぎることについて批判しているのは、専門家に限らない。社会の2極化が進む中、同宣言をトランプ大統領があからさまに政治利用したことで、2020年大統領選に向けて大統領の権力に対する懸念はますます議論の的になるだろう。
「大統領」は君主制への批判から生まれた
アメリカ大統領の住居兼事務所であるホワイトハウスは「庶民の家(People’s House)」とも呼ばれる。地元連邦議員やホワイトハウス職員を通じて事前に予約すれば、外国人も含め誰でもセキュリティチェックを経た後にホワイトハウスを訪問することが可能だ。夕方になれば大統領や大統領の家族、ホワイトハウス職員が寛ぐ部屋などを、見学者は日中に歩き回ることができ、大統領を身近に感じられる。建国当初から、ホワイトハウスは国王が統治する宮殿ではなく、国民の所有物であり、国民が認める期間のみの大統領の仮住まいとして位置づけられているのだ。
君主制に反対したアメリカ建国の父は、3権分立制度を確立し、立法府、行政府、司法府に権限を分割し、均衡と抑制でお互いをけん制し合う仕組みを導入した。つまり、本来、大統領職は絶対的な権限を保持する役職として位置づけられていない。
大統領(President)の語源は、「前に着席している」という意味の“Praesidere”であり、“決定者(Decider)”ではない。1780年代、建国の父は憲法執筆の際、行政府の長の肩書きについて「国王(King)」とは呼ばないことは明確であったが、どのように呼ぶべきか悩んだという。目を引くものの、過度な権力を保持するものではないという意味の肩書きとして最終的に考え付いたのが「President」だったという。
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