トランプの「非常事態宣言」は憂慮すべき問題だ 社会の2極化の中、肥大化する大統領権限
2月22日、ホアキン・カストロ下院議員(民主党)をはじめ220人を超える下院議員が連名で非常事態宣言の不承認決議案を提出した。今後、下院に続き、上院でも過半数の支持を得て不承認が決議されると見込まれる。民主党が過半数を占める下院だけでなく、上院でも一部の共和党議員から大統領の権力乱用との不満が噴出しているからだ。2月15日、マイク・リー上院議員(共和党)は、「この機会に(議会は大統領に与えた)権力を取り戻し始めるべき」との声明を発表した。
だが、不承認決議に対し、大統領が拒否権を発動することは確実だ。その後、上下両院で大統領の拒否権を覆す試みがみられるかもしれないが、覆すために必要となる3分の2には達しないことが予想される。
上院では47人の民主党議員に加え、20人の共和党議員の協力が必要となるが、現時点、共和党議員で非常事態宣言に反対を表明しているのは8人にすぎない。さらに下院(欠員3人のため現在432人)では235人の民主党議員に加え、53人の共和党議員の協力が必要となるが、2016年大統領選の目玉公約であった壁建設に関わる非常事態宣言で、共和党内から大統領に反旗を翻す議員は、これほど多くはいないと思われる。
議会が拒否権無効で合意できず、司法判断へ
3権分立における議会の予算権限を保持するためには大統領の拒否権無効に合意するのが、議員にとって当然の行為と思われる。建国の父も、各府がそれぞれの権力を維持するために均衡と抑制を働かせることを、想定していた。
だが、多くの共和党議員が拒否権無効に賛成票を投じないのには、今日の社会の2極化が影響している。仮に現職議員が賛成票を投じた場合、落選リスクを高める自殺行為となりかねない。次回選挙の予備選で同じ共和党内から、もっとトランプ大統領寄りの対抗馬が登場することが予想されるからだ。つまり、各議員が自らの再選のためにはアメリカ憲法の根幹にある3権分立の精神に背くインセンティブが働くといった矛盾に直面している。
既にトランプ大統領の非常事態宣言に対し、各方面から訴訟が起きている。非常事態宣言を行う根拠となる緊急性に欠ける点や予算の利用方法などが追及されている。トランプ大統領自らが記者会見で「(非常事態宣言は)しなくてもよかった」と認めた。メキシコ国境を超える不法移民の人数は過去約40年の最低レベルまで下がっている。
そもそも非常事態を宣言するのにためらい、時間を要していたことからも緊急性に欠けることは明らかだ。大統領は議会が壁建設費用を捻出するのを待っていたというが、本来、議会を待つ時間がない場合に大統領は非常事態を宣言するものだ。
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