ワシントンでトランプ流交渉術が敗北したワケ

「壁予算」で初戦は完敗、今後のシナリオは?

2月5日の一般教書演説でも壁建設の必要性を説いたが(写真:ロイター)

ビジネスマンとして「偉大なるディールメーカー(交渉の達人)」であることをアピールしてきたトランプ大統領。『Art of the Deal(交渉の美学)』(邦題は『トランプ自伝』)という著書もある。しかし、今は2016年大統領選の目玉公約であった「メキシコとの国境の壁」建設をめぐるディールで、就任以来最大の試練に直面している。

2018年12月末から今年1月まで35日間続いた政府の一部機関閉鎖はアメリカ史上最長記録を塗り替え、アメリカ経済にもわずかながらダメージを与えた。政府再開の圧力が高まった結果、トランプ大統領は2019年1月25日、壁建設の予算を確保できないまま一時的に政府再開の決断に踏み切った。壁建設をめぐる交渉第1ラウンドは共和党支持者も認めるようにトランプ大統領の民主党に対する敗北であった。

トランプ大統領は何を間違えたのか。

壁建設をめぐるトランプ大統領の交渉手法の特徴は、「ゼロサム」、「トップダウン」、「透明性重視」といえよう。大統領の交渉手法はオーナー社長としてニューヨークの不動産業のディールには効果を発揮したかもしれない。だが、これら手法は、アメリカ政治では通用しないことが徐々に判明しつつある。さらに交渉を難しくしているのが、今日のアメリカ社会の2極化だ。

「ゼロサム」は平行線で終わるリスク

2019年1月9日、ホワイトハウスの会合でトランプ大統領は、政府閉鎖を解除した場合、国境の壁を含む国境警備の予算を認めるかどうかナンシー・ペロシ下院議長に尋ねた。同議長が「ない」と答えたと同時に、トランプ大統領は「バイバイ」と言って、会議室を去ったという。

「壁建設支持 vs. 壁建設反対」といった壁問題のみに焦点を当てた「ゼロサム」の交渉が行われる限り、最終的に勝者と敗者が生じる。「ゼロサム」の考えに基づく交渉は1970年代にアメリカでベストセラーとなった『Winning by Intimidation(脅しで勝利)』(邦題『型破りで勝つ』)で元不動産仲介者ロバート・リンガー氏などが提唱したもので、古流の交渉術だ。

だが、今日ではロジャー・フィッシャー・ハーバード法科大学院教授などが『Getting to Yes(イエスを言わせる方法)』(邦題『ハーバード流交渉術』)で提唱するような、両者ともに勝者と宣言できるような「ウィンウィン」を目指す交渉術が主流となっている。「ゼロサム」ではパイの取り合いとなるが、「ウィンウィン」の交渉ではパイを拡大し、より創造性に富んだ妥協策を見出す。

「ゼロサム」に基づく交渉のほうが勝者はよいディールを得るケースもあるものの、交渉の決裂や、敗者となって損をするなどの大きなリスクも伴う。

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