ワシントンでトランプ流交渉術が敗北したワケ 「壁予算」で初戦は完敗、今後のシナリオは?

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次に、「トップダウン」の手法も通用しなかった。

アメリカは行政府(大統領府)、立法府(議会)、司法府の各府が三権分立で「抑制と均衡」に基づき、権力を均衡に保っている。これは欧州の王政のように権限が独走する危険性を防ぐためにアメリカの建国の父が考え抜いて築いた仕組みである。行政府の長であるトランプ大統領は絶対的な権限を保有していないため、議会を思い通りに動かすことはできない。

2018年中間選挙で民主党が下院を奪還したことで、2019年1月にねじれ議会が発足し、ますます大統領の思いどおりとすることが難しくなった。政府閉鎖をもたらしたトランプ大統領の交渉手法は、トップダウンで議会の法案を成立させられるという誤った考えに基づいていたとも言えよう。あるいは経験豊富なペロシ下院議長の政治能力を過小評価していたのかもしれない。

そもそも政府閉鎖の責任はトランプ大統領にあると捉える国民が多くいたことからも、交渉の立場はトランプ大統領のほうが弱かった。2019年1月20~23日、ウォールストリートジャーナル紙・NBCニュースが実施した世論調査によると、政府閉鎖に至った最大の責任者は「トランプ大統領」と答えた人が50%であったのに対し、「議会民主党」と答えたのは37%であった。なお、壁建設を支持する民主党支持者は11%に過ぎなかった。

トランプ大統領は議会との妥協案を見出すには、トップダウンで下院議会を動かすことはできないことを認識し、強硬な主張を和らげなければならない。

「透明性重視」にすると支持基盤に縛られる

トランプ大統領がツイッターなどソーシャルメディアを通じて不特定多数の国民に情報提供することは、今日、政治の透明性を求める国民が歓迎する行為だ。ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件が起きた1970年代以降、国民の声を受けてアメリカ政治は透明性改善を推進してきたが、ソーシャルメディア普及がそれに拍車をかけている。交渉過程を公表することは、支持基盤にアピールする政治的手法として効果がある。だが、一方で支持基盤に人気のない妥協を行うのが困難になるといったリスクを伴う。

2018年12月、トランプ大統領は政府閉鎖を回避する議会超党派案にいったんは合意したものの、保守系コラムニストのアン・コールターやラジオ番組の司会者ラッシュ・リンボーなどに批判され、撤回した。大統領は議会共和党ではなく支持基盤に自らの政策が拘束され、譲歩できない状態に陥った。

現在、議会では上下両院の超党派17人で構成される議会予算協議委員会で予算交渉を進めている。交渉内容にトランプ大統領が途中で介入し、支持基盤に協議内容を明かすことがあれば、再び保守派から批判を受けるのは必至だ。だが、トランプ大統領が議会予算協議委員会に超党派の合意を任せ、支持基盤にその合意内容を「勝利」としてアピールすれば、超党派合意を実現する可能性が高まる。

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