トランプの「非常事態宣言」は憂慮すべき問題だ 社会の2極化の中、肥大化する大統領権限

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2019年2月15日、トランプ大統領はメキシコとの国境の壁建設費用を計約80億ドル(議会承認の約13億8000万ドル含む)確保するため、非常事態を宣言した。民主党議員、一部の共和党議員、そして比較的リベラルな左寄りの米メディア各社などは相次いでトランプ大統領の行為を批判した。

非常事態宣言は国家非常事態法(NEA)で規定されている。大統領は同宣言を行うと、通常は議会が保有する権限や予算を利用することが可能となる。ニューヨーク大学法科大学院ブレナン司法研究所の調査によると、非常事態宣言によって大統領は法律に記載の123項目にものぼる新たな権限を得られるのだという。

アメリカが民主主義国家として始動した独立宣言からちょうど200年後の1976年、NEAは制定された。ウォーターゲート事件でリチャード・ニクソン元大統領(任期:1969~74年)が辞任した後であった。そもそもNEAはニクソン元大統領の非常事態宣言の利用について懸念を示した議会が、制定に動いたもので、本来は大統領権限を制限する意図があった。

だが、同法では大統領が非常事態宣言を行うこと自体には厳しい制限を設けなかった。その結果、NEA制定後も歴代大統領は不明瞭な大統領権限を利用し、さまざまな場面で議会承認を経ずに政策を実行してきた経緯がある。こうした中、議会も合意が難しい国内政策や責任を負いたくない外交政策などで、大統領に権限を事実上委譲してきた。ねじれ議会でトランプ大統領は今後ますます、外交や通商政策でその権限を行使するに違いない。

3権分立を蝕むアメリカ社会の2極化

アメリカ政治では予算権限は議会にある。「金力(Power of the Purse:財布の力)」と呼ばれる予算権限は3権分立において議会が保有する最重要任務だ。予算は議員が作成する法案に基づき議会が審議し、上下両院で可決後に大統領が署名して成立する。大統領は予算教書で方針を示す法律制定の勧告権はあるものの、法案を提出することはできず、予算教書は議会にとってあくまでも参考情報にすぎない。

議会が超党派で合意し、2月15日の大統領署名で成立に至った2019会計年度歳出法では、大統領がメキシコとの国境に「テキサス州の指定地域で約55マイルの杭のフェンス」を導入する約13億8000万ドルの予算のみ認めた。つまり、トランプ大統領が当初計画していたコンクリートの壁を議会は実質的に認めなかった。

トランプ大統領が非常事態宣言によって、議会が認めなかった障壁を独自に建設することは、議会の予算権限をないがしろにする行為と捉えられている。議会が配賦した軍隊向け予算が壁建設費に転用されることについて、タミー・ダックワース上院議員(民主党)は「大統領は軍隊から盗んでいる」と批判した。

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