「警戒心は湧くんだけど、うれしさもあるんですよ。『ついに俺のことに気づきやがったか』って。でも、もう少し俯瞰して見ている自分がいて『この状況は面白いぞ』って思うわけです」
それまではただのいちライターだったのに、1冊売れたことにより有象無象が寄ってきて、“北尾トロ”を消費しようとする。
「俺の本が面白いとか、文章が好きとか、いっさいないんだから(笑)。瞬間的に売れっ子になったから、寄ってきた人は多かったけど、だいたい断りましたね」
しかし「売れるのは大事だな」と思った。やりたいことに時間とお金をかけられる。お金があれば、いろいろと遊べるな、という感覚だった。
「“本の町”というのがやりたくて、長野県南部の高遠町に古本屋を出してブックフェスをやりました。結局1000万円くらい赤字を出して、撤退しました。
それでもまだお金があったので、雑誌を作りたいと思い『季刊レポ』を発刊しました」
『季刊レポ』は年間4冊発刊するペースで5年間続けた。合計20冊の雑誌を出した。
始めたのは2010年で、すぐに東日本大震災が起きた。2012年には長野県松本市に移住した。
「レポはやりきったと思って辞めました。すごい楽しかった。だいたいのことは5年もやればいいかと思います。ネット古本屋も盛り上がっていって、俺より情熱的な人があらわれたからもういいかなと思いました。俺は次にいきたいなって『あとはたのんだ!!』って気持ちになるわけです。俺はやりたいことがいろいろあって、やりたいことはやらなきゃって思ってます。うちの親父がそうだったように、いつ死ぬかわからないですからね」
猟師に聞くのが難しいなら、猟師になればいい
移住した長野県松本市では狩猟をはじめた。
「最初は『猟師にインタビューしてくれませんか?』って依頼だったんですけど、なにもわからないのにインタビューするのはむつかしいです。足元見られちゃうから。『だったら猟師になればいいのか』って思いました。猟師仲間なら少なくとも話は聞けるだろうって」
『猟師になりたい!』(KADOKAWA)、『猟師になりたい!2 山の近くで愉快にくらす』(KADOKAWA)、『晴れた日は鴨を撃ちに 猟師になりたい!3』(信濃毎日新聞社)と3冊の本を出した。
現在、狩猟免許をとりたい人は増え、試験の予約をとるのもむつかしい状況になっている。これには北尾さんの活動の影響も強くあるだろう。
下関マグロさんとはじめた、町にある普通の中華料理店を回る「町中華探検隊」も『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう 』(立東舎)、『町中華探検隊がゆく!』(交通新聞社)と2冊が発売されている。
「今まで話したのはうまくいった例です。ネット古書店、裁判傍聴、狩猟、町中華、山田うどん、くらいはまあまあ成功しましたね。小さい失敗は山ほどしてます。去年は、ピロシキにはまって、ピロシキばっかり作ってました。最初は松本に名物を作りたいという気持ちだったんですけどね。
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