50歳「心を病んだ人を救う男」の潔い生き様

彼は刺される覚悟を持って現場に赴いている

重度の精神障害を持ちながらも適切な処置がなされていない、そんな患者と医療を「つなぐ」仕事があります(筆者撮影)
これまでにないジャンルに根を張って、長年自営で生活している人や組織を経営している人がいる。「会社員ではない」彼ら彼女らはどのように生計を立てているのか。自分で敷いたレールの上にあるマネタイズ方法が知りたい。特殊分野で自営を続けるライター・村田らむと古田雄介が神髄を紡ぐ連載の第57回。

昨年、『「子供を殺してください」という親たち』(新潮社)という漫画を読んだ。

この漫画は事実に基づいて描かれた作品だ。主人公は、原作者の押川剛さん(50歳)本人であり、漫画に登場する「トキワ精神保健事務所」も押川さんが作った実在の会社だ。

患者と医療を「つなぐ」仕事

トキワ精神保健事務所の業務内容は、さまざまな精神障害を持ちながらも適切な対応がとられていない人たちを、説得して医療につなげることだ。依頼するのは、対象者の家族である。

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漫画を読む直前、内心「ちょっとタイトルが大げさすぎるのでは?」と思ったのだが、数ページ読んだだけで疑念は吹っ飛んだ。

第1話の対象者は、冒頭シーンで往来に面した庭で全裸でバットを素振りしていた。そしてそのバットで、家族で飼っている猫を殴り殺した。

対象者の両親は本気で「子どもに殺される」と怯えているし「子どもが死んでくれたら……」と祈っている。読んでいるだけで心がヒリヒリするような状況だった。

対象者には完全に精神科の治療が必要な状況なのだが、病識(自分が病気であるという認識)がない。

かつては、危険を回避するために、対象者をロープで縛り強制的に移送する方法が多かったが、押川さんはみずからの意思で病院に行くよう対象者を説得する。

精神病院サイドも簡単に受け入れてくれるわけではない。押川さんは病院に対しても、説得しなければならない。

次ページ説得の仕事は命がけ
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