対象者は、重度の統合失調症やうつ病、強迫症やパニック症といった精神疾患、長期ひきこもり、アルコール依存症、薬物依存症、ストーカー、性犯罪、など多岐にわたる。
場合によっては対象者に危害を加えられる可能性もある、まさに命がけの仕事だ。
多くのケースでは、対象者の両親にもかなり問題がある。例えば、子どもに期待をかけすぎ、エリートコースしか認めないなど退路を断ちすぎた結果、子どもの心が壊れてしまうのだ。
漫画内には、押川さんが依頼者である両親に罵倒されるシーンもある。
『「子供を殺してください」という親たち』にはすっきりしたオチはない。後味が悪く終わるエピソードも多い。
でもこれが、日本のどこかで毎日起きている現実なんだと知り、強く胸に響いた。
漫画を読むだけでも、こんなに大変な仕事はめったにないだろうと思う。
押川さんはこの仕事を始めてすでに20年以上になる。どのような人生を経て彼は、「精神科の治療が必要な子どもたちを医療につなげる仕事」に行き着いたのか。新潮社の会議室で話を聞いた。
口達者で根性は人一倍
押川さんは、福岡県北九州市で生まれた。母子家庭であり、近くに住む叔父が父親代わりだった。
「小さい頃は身体が小さかったけど、口は達者でしたね。走るのも速かったし、背の高いやつに食ってかかる根性もありました」
学校の成績もよかったが「覚えたことを、そのまま答える」だけで、評価される小中学校の授業には抵抗があった。
「『覚えて答える』だけで褒められるのは、犯罪だという意識がありました。そんなの本当の意味での『頭がよい』のとは関係ないですから。だから勉強以外のことで褒められたいと思いました」
スポーツは勉強とは違い“ガチ”だと思い、剣道や水泳に打ち込んだ。
生まれ持った運動神経や、身体のサイズなど、とても大きな壁にぶつかった。どうあがいても勝てない相手もいる。でも彼らに嫉妬するのではなく「すごいヤツだな」と相手を認められる自分がいた。
「北九州市は正直な話、民度が高くない地域です。だからケンカが強いほうが、生きていくには好都合です。叔父にもつねづね『とにかく気合だけは入れろ!!』と言われてました(笑)」
ただ、押川さんはあまり拳を使わずとも、強い存在でいられたという。
「中学時代は法律の知識を覚えるのがとても得意だったんです。六法全書とかも読み込んでました。そうしたら不良連中が相談に来るんですよ」
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