60歳を超えても「書いて稼ぐ男」の快活な生き方 裁判、町中華、狩猟…独特なルポを連ねる

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「行きますよ!! と即答しました。でもそれから半年間なんの動きもなくて、企画つぶれたのかな~と思っていたら『至急会いたい』と連絡が入りました」

「アフリカ雑誌じゃなくて、スキー雑誌になっちゃった。これからはスキーだよ!!」

と言われた。ずいぶんな方向転換だが、時代はバブル景気の頃だ。映画『私をスキーに連れてって』もヒットした時期で、読みはあながち間違っていなかった。

「『スキーなんてやったことないです』って言ったんだけど、それでも構わないって言うんですよね。マッさん(下関マグロ)とかを誘ってみんなでスキー合宿に行ったけど、誰もやる気ないの。コーチも怒っちゃって『お前らやる気あんのか!!』って怒鳴られて『ねーっす』って答えてました(笑)」

スキーに興味はわかなかったが、企画は動き出してしまった。いきなり、

「スイスの世界選手権に行って取材してきてくれ。それからスイスのツェルマットのスキー場で遊んできて」

と依頼された。バブル景気の頃だから、お金には余裕があった。

スキー雑誌の取材はもちろん降雪があるシーズンだけなので、最長でも12月~5月までの半年間だった。

「『こりゃいいや。1年の半分は遊びだ』って思いましたね。取材の時期は経費で飲み食いできるし、日当が出たので食うには困りませんでした。もちろんカツカツですけど、20代後半は『東京にいられればいい』『食えればいい』って感じでした」

バンドをはじめたり、海外旅行に行ったりと、楽しい日々を過ごした。

下関マグロさんと会社員の岡本さんと組んでいたバンドは『能天気商会』という名前だったが、そのままの名前で編集プロダクションにした。

そこで、3~4年ビジネス雑誌などの仕事をこなしたが、そのまま解散してしまった。

バブルのバカ騒ぎを見て腹が立ったが…

「結局、僕らがついていたのは“景気がよかった”ことなんですよ。当時は金を持ってなくて、テレビなんかで流されるバブル景気のバカ騒ぎを見て腹が立って『早く終わっちまえ!!』と思ってたけど、でも今思えばその恩恵で食えてたんですね。つまらない仕事だったとしても、仕事がまったくなくなることはなく、なんとかなってました」

思えば好景気の恩恵を受けていた(筆者撮影)

その後、競馬の本を出版した。しっかりと取材をして作った。本はあまり売れなかったが、楽しかった。それまでは雑誌に書く仕事ばかりだったが、1冊の本を作るのはまた違う楽しみがあるんだと知った。

そして『裏モノの本』(三才ブックス)などで、自分の興味があることや、あやしいと思うことを取材して記事にする仕事をはじめた。

「スキー雑誌なんか目じゃないほど楽しかったですよ。ムックだから15~20人くらいのライターがテーマ別に書くんです。いつも『いちばん面白いルポを書きたい』って思ってました」

そして雑誌『裏モノJAPAN』(鉄人社)が発刊され、連載をすることになった。

“小さな勇気”をテーマに毎回さまざまなことにチャレンジする『365歩のマーチ』という連載だった。この連載はのちに単行本『キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか』としてまとめられる。

「毎月毎月大変でしたよ。40歳手前のあの時期じゃないとできない仕事でしたね」

この連載で人気が出たのは、北尾さん自身が“平凡な男”だからではないかと思う。

「俺は中流家庭に育った平凡な男です。人のやらないことをやるタイプじゃない。でも『平凡は読者に近い』んですよ。読者から共感を得られます。奇抜なことをやるとき、毎回はじめてのようにビビります。普通のライターは慣れてしまうんですけどね。そこはいいところなのかもしれない。

今までいろいろな本を出してきたけど自分では“鼻毛本”がいちばん好きですね。思い出深い1冊です」

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