60歳を超えても「書いて稼ぐ男」の快活な生き方 裁判、町中華、狩猟…独特なルポを連ねる

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この頃、サブカルチャーの雑誌で書くライターが注目されていた。

筆者(村田らむ)もちょうどライターの仕事をはじめた頃で、北尾トロさんに強く興味を寄せていた。

「自分では注目されてるって感覚は全然なかったですね。そもそもサブカルチャーで仕事をしてるとも思ってなかったですし。歳をとってから若い編集者に『高校のときすげえ読んでました』とか言われてはじめて、『へえそうなんだ』って思ったぐらいです」

北尾トロさんの同世代のライターは、みうらじゅんさん、えのきどいちろうさん、など現在も活躍している人も多い。

ただ北尾さんは、彼らと同じ土俵に立っている気はまったくなかったという。

「俺はメジャーな雑誌ではほとんど書いてなかったですし。エロ本や専門雑誌とかが中心で、日当たりがいい場所を歩いてないですから。彼らのことは『面白いな~』と思ってたけど、それ以上はなんにも考えてなかったですね。うらやましいとかもなくて。もともと人のことは気にならないタイプなんですよ」

他人や理想、昔と比較しない

北尾さんのモットーに『比較三原則』というのがある。

●他人と自分を比較しない
●理想を高くもって、その理想と現状を比較しない
●昔の自分と今の自分を比較しない

というものだ。

たしかに『比較三原則』を守れば生きるのが少し楽になりそうである。

『365歩のマーチ』の連載を終えた後は、ちまたにいるエロジジイを取材する『ニクイ貴方』という連載をはじめたが、読者受けが非常に悪かった。そこで急遽、新しい企画を考えることになった。

編集部で企画が決まらなくて悩んでいたところ、若い編集者が

「裁判って誰でも見に行っていいらしいですよ」

と言った。

「『裁判を傍聴するって面白そうだな』ってはじめることになりました。3年くらい連載しました。裏モノJAPANの最後の連載でしたね」

連載終了後は連載をしていた鉄人社から単行本が発売された。重版はかかったものの、さほど売れたわけではなかった。

数年後、文藝春秋から「文庫化したい」と声がかかった。

「ちょうど裁判員制度がはじまるころで、話題になると思ったんでしょうね。素直にうれしかったです。声がかかった翌日に幻冬舎から電話があってやはり『文庫化したい』って言われたんですよ。断ったら『だったら“鼻毛本”を文庫化させてほしい』って言われて2日で2冊の文庫化が決まりました。そのときは、ネタがないんだな~って思ったくらいでした」

そして『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』は爆発的に売れた。毎週、100万円単位のお金が入ってきた。

「『これか!!』って思いました。話には聞いてたけど、これがベストセラーを出すってことかって」

『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』は映画や漫画にもなった

編集者からは

「これからもどんどん入金されますけど、いつかは止まりますので金銭感覚がおかしくならないように気をつけてください」

と注意された。

『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』の売り上げに引っ張られる形で『キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか』も売れた。

そうなると、さまざまな出版社の人間に会いたいと言われた。

「もういっちょいきませんか? 裁判モノで!!」

と声をかけられる。

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