“真剣交際”という私の言葉を聞いて、洋子は言った。
「性格はまじめ一徹。面白みはないんですけど、結婚するにはチャラチャラした口先だけの男性よりも、早坂さんのような方のほうがいいと思っているんです。会社も安定している大手企業だし、結婚してから私が働くことも認めてくれています。そこは申し分がないんです。ただ……」
洋子は、有名私大を卒業後、大手保険会社に就職をした。向上心も強く、会社では総合職として男性と肩を並べて仕事をしている、いわゆるバリキャリタイプだ。それだけにどうも恋愛や結婚を頭で考えてしまうようなところがあった。
「親の介護」が気になる
「1つ心配なことがあるんです。お父様が亡くなっていて、お母様は80歳に近い高齢なんですよ。今はお元気だから、埼玉北部のご実家で一人暮らしをなさっている。早坂さんは一人っ子だし、お母様のことが心配なんでしょうね。会話をしていても、『母親もいい歳だから』という言葉が頻繁に出てくるんです。“結婚後の同居はない”と言っていますが、数年後お母様を介護しないといけない状況になったら、どうなるのかなって」
婚活者がアラフォー、アラフィフ世代の親の結婚は、夫の親との同居が一般的だった。嫁が嫁ぎ先の舅姑の面倒を見るのも至極当然のこと。その経験をして年を経ているので、“老いたら子どもの側にいたい”“介護は子どもにしてもらいたい”と思っている親は、とても多い。
しかし、今の婚活者は、親と同居したくない人が圧倒的だし、親が高齢なら将来的に待ち受ける介護の問題を先回りして心配する。プロフィールの“親との同居”を書く欄に、“相談したい”と書いている男性は、ほぼ“同居希望”と女性たちから見なされ、お見合いが組みづらくなっているのも現状だ。
その日は、「そんなに先のことを心配していたら、誰とも結婚できないわよ。まずはお人柄を見て、それで早坂さん自身がいい人なら、真剣交際に入ってもいいんじゃないの?」
そう言って、面談を終えた。
そこから、数日後、早坂の仲人から連絡が入った。
「早坂と内田さん、いいお付き合いをさせてもらっているようですね。それで先日、“真剣交際”に入ることを勧めたら、早坂が、『1点、気になることがあります』って言うんですよ」
早坂は早坂で、“真剣交際”に進むことに懸念事項があるようだった。早坂は仲人にこんなことを言ったそうだ。
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