本当に記録はないのか? ハードル高い”消えた年金”の復活

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本当に記録はないのか? ハードル高い”消えた年金”の復活

稲毛由佳 ジャーナリスト、社会保険労務士

 「社会保険事務所で『記録がない』と言われた。第三者委員会ならば、認めてもらえると期待していたのに……」

こう肩を落とすのは徳島県に住むA夫(74)さん。高校卒業後、地元企業に勤めていたときの厚生年金記録を捜している。今年7月、「記録訂正のあっせんは行わない」という第三者委員会からの通知が届いた。

第三者委員会とは、正式には年金記録確認第三者委員会といい、約5000万件の「宙に浮いた記録」や「消えた記録」の問題をめぐり、昨年6月、総務省に設置されたもの。

A夫さんのように、本人は厚生年金や国民年金に加入していると思っていたのに、社会保険庁が管理する年金記録では「年金に加入していない」「保険料を納めていない」という状況になっている人たちの年金記録を復活させるかどうかの判定を行う機関である。

地元企業に3年間勤めた後、家業を継いだA夫さんは、ずっと国民年金加入者だった。会社員時代の厚生年金のことは忘れていたが、十数年前から記録捜しを始めた。昔の同僚から「厚生年金をもらっている」と聞いたのがきっかけだった。

現在では個々の年金記録はコンピュータで管理されているが、かつては紙台帳で行われていた。A夫さんは社会保険事務所でこの紙台帳を調べてもらったが、名前はなかった。そこで、写真や同期会名簿といった当時の資料を基に、第三者委員会に申し立てたのである。

「結論は、社会保険事務所と一緒。給料明細書など保険料が控除されていた物的証拠がなければ、認められないと。なぜ私だけが加入してなかったのか。元同僚で未加入が何人もいれば、まだ納得もできるが、そうした調査結果は何も教えてくれない」(A夫さん)

これまで、第三者委員会には、6万3507件の申し立てが寄せられた。判定が出たのは3万3837件(取り下げられたものを除く)。「年金記録の訂正が必要」と判断された事案が1万3565件であるのに対し、「訂正不要」とされた事案は2万0272件(11月18日時点)。10件中、6件が訂正不要という計算になる。

いま訂正不要と判断された人の間では、A夫さんのような第三者委員会に対する不満が噴出している。第三者委員会への申し立ては、何度でも可能だ。そのため、第三者委員会の判断に納得がいかず、自力で証拠捜しに奔走し、再申し立てをするケースも出ているくらいだ。


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