本当に記録はないのか? ハードル高い”消えた年金”の復活
保険料が天引きされた物的証拠は必須
会社に勤務していたこと、保険料が給料から天引きされていたことの二つを証明できるかが、あっせんのカギとなる。勤務状況の確認では、在籍証明書や人事関係の書類が25件、保険料控除では、給料(賞与)明細書が15件と、当時の資料が決め手となっている。
しかし何十年も前の勤務当時の資料などを持っている人はほとんどいないだろう。法律上、会社側の人事記録の保存期限は5年間で、まず保存されていない。倒産などで会社そのものがなくなっていることも多い。
実際、9月に東京の地方第三者委員会で「記録訂正は不要」と判断された75事案では、「保険料控除を確認できる関連資料および周辺事情がない」ことが理由となったものは52件と全体の約7割を占めた(図2)。
「退職後、失業保険をもらった記憶がある。雇用保険に入っていたのだから、当然、厚生年金にも加入していると思っていました。第三者委員会は認めてくれるでしょうか」
こう不安を口にするのは、約2年半勤めた会社での厚生年金記録が見つからず、第三者委員会への申し立てを考えているという千葉県のB夫(64)さんだ。B夫さんの手元にあるのは慰安旅行で撮影した部下との写真だけで、給料明細票など当時の資料は残っていないという。
確かに、先のあっせんが認められた東京の56事案では、約6割の34件で、雇用保険の加入記録が判断材料に加わっている。だが、雇用保険記録で証明できるのは勤務状況だけで、厚生年金保険料が天引きされていたことを証明するには不十分だ。
というのは雇用保険料は給料の1・5%だが、厚生年金保険料は15・35%(08年9月時点のデータ)とケタが一つ違ってくる。法律上は、正社員は両方に加入しなければならないが、厚生年金保険料の高い負担を嫌って、雇用保険しか加入させない会社がたくさんあるからだ。
実際、記録訂正が不要とされた75件の事例では、雇用保険の加入記録があったケースが11件もある。また過去の写真も決定的な証明にはならず、単に勤めていたことを示す材料にしかならない。B夫さんも、「保険料が控除されていた物的証拠がなければ認められない」となる可能性が高い。
非あっせん事案では、事情がややこしいケースがある。