ノーベル賞ローマー教授はIT革命を予見した

ローマーモデルとは「知識」が牽引する成長だ

この点は、他の先進諸国よりも前から停滞を続けている日本にとっては、より切実な問題である。アベノミクスは大胆な金融緩和を中心とした政策で景気の持続的な回復を続けているが、その間の経済成長率は先進諸国の中では低位にとどまっている。この現象をローマー教授の経済成長理論に沿って解釈すれば、結局、アベノミクスは、第3の矢である成長戦略に、より軸足を移し、成長要因への集中的な資源配分を行う制度や枠組みを作る努力をすべきだということになる。

もうひとつは、ローマー・モデルは、現代の技術革新の特徴を見事に予言していたということである。ローマー・モデルでは、技術に関する知識やアイデアなどの無形資産が、新たな技術革新を起こし、生産性を向上させ、長期的な経済成長につなげる役割を果たす。こうした技術革新のプロセスは、まさに米国におけるIT革命とその新たなデジタル革命から生まれたアマゾン、グーグルなどの企業群にあてはまる。その意味では、単に経済成長理論の新たな分野を開拓したという意味だけでなく、IT革命の影響に関する実証分析などにも理論的根拠を与えたと言えよう。

シカゴ大学研究会における宇沢弘文教授の先見性

最後に……ローマー教授の論文は非常に革新的だが、彼の業績につながる研究がなかったわけではない。その源流をたどれば、ケネス・アロー教授(スタンフォード大学)の「学習効果」モデルに行き着く。ジョセフ・スティグリッツ教授(コロンビア大学)は、ソロー教授の65歳を祝う記念論文集で、シカゴ大学における宇沢弘文教授の研究会に集まった多くの経済学者も、1960年代にローマー・モデルの源流となる研究をしていたと論じている。

その中には、ノードハウス教授の初期の論文や宇沢教授自身の論文も含まれる。特に宇沢教授が1965年にInternational Economic Review誌に公表した論文(”Optimal Technical Changes in an Aggregative Model of Economic Growth”)は、人的資源をどのように教育部門と生産部門に配分すればよいかを最適経済成長理論の枠組みの中で考察したものであり、まさに今回のノーベル経済学賞の趣旨に沿ったものである。

宇沢教授が経済成長論の分野で大きな貢献をされていただけでなく、晩年は、地球環境問題に大きな関心を示し、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)が主催した地球温暖化のシンポジウムにも、ノードハウス教授を招待されていただけに、今回の経済学賞の発表を聞くと、「もし、ご存命であれば……」と考えてしまう。これは宇沢教授が筆者の恩師であるからかもしれないが、同様の感想は周りの研究者からも聞いている。

今年の経済学賞は自分の関心に非常に近い分野の受賞ではあるものの、個人的には残念な思いが伴うイベントでもあった。

※カッコ内の大学名は研究発表当時の在籍です。

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