「契約理論」はわれわれの身近で役立っている 2016年ノーベル経済学賞2人の重要な業績

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ベント・ホルムストロームMIT(マサチューセッツ工科大学)教授(ロイター/アフロ)

2016年のノーベル経済学賞をオリバー・ハート教授とベント・ホルムストローム教授が受賞した。受賞理由はシンプルに「契約理論への貢献」である。ハートとホルムストロームは主に契約理論とその応用分野である組織の経済学、コーポレートファイナンス、コーポレートガバナンス(企業統治)において巨大な存在である。また、ハートは商法・会社法の法学者、ホルムストロームは人事の経済学や分析的会計研究者の間でも有名なはずだ。

学生時代から今日まで契約理論と呼ばれる経済理論の一分野を勉強・研究してきた僕にとって、直球ど真ん中の結果であり、嬉しい。しかし、2年前の2014年にジャン・ティロール教授が受賞していたので、こんなに早く彼らが受賞するとは正直予想できなかった。何しろティロールの受賞理由の半分は契約理論の応用であり、彼自身も契約理論への重要な貢献を行っている。さらに、ティロールはハート、ホルムストロームともそれぞれ共同研究を行い、成果をあげているのだ。

「契約理論」とはインセンティブ設計の理論

契約理論はひとことで表すとインセンティブ設計の理論である。インセンティブとは「期待というアメと、恐れというムチを与えて、人を行動へ誘うもの」であり、契約理論の「契約」とは、文字通りの契約よりも広く、インセンティブを与える仕組み全般を意味している。「人はインセンティブに反応する」は経済学の基本的な考え方のひとつで、人や組織(を動かす人)の行動に問題があるとき、人をその行動に導いたインセンティブに注目することで、人自身の問題に帰着させず、人を取り巻く契約、制度などの仕組みを分析することができる。「人を憎まず、制度を憎む」である。

以下では、限られた紙幅ではあるが、まず契約理論におけるホルムストロームの主要な貢献を、続いてハートの主要な貢献を解説しよう。ホルムストロームの主要な貢献は、インセンティブを与える契約に利用可能な業績指標がある状況(完備契約)の分析、ハートの主要な貢献は利用可能な指標がない状況(不完備契約)の分析にある。

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