「契約理論」はわれわれの身近で役立っている

2016年ノーベル経済学賞2人の重要な業績

さらに、資産を所有することは資産をどのように利用するかを決定する権利の源泉となる。レンタカーの利用者はレンタカー契約書で認められた範囲で、自由に車を利用することができる。しかし、契約書に記載されていない事態が発生したとき、車の利用について決定権を持つのは所有者すなわちレンタカー会社である。

このように資産を所有するということは、その資産をどのように利用するかについて、契約に明記されていない状況で資産をコントロールする権利を持つことである。したがって、資産の所有者はその資産が重要な役割を果たす取引において事後的に大きな交渉力を持つ。

グロスマンとハートの先駆的論文は、契約が不完備である状況を分析する理論枠組みを提示し、資産所有をあらかじめにどのように配分することが望ましいかを分析した。

資産所有がもたらす投資インセンティブ

とりわけ、2社が取引を行う状況で両社がそれぞれ自社の資産の所有権を保持した独立の会社として取引する場合、A社がB社の資産を買収統合する場合、そしてB社がA社の資産を買収統合する場合のメリットとデメリットをはじめて共通の枠組みで明らかにした。つまり、どこまでの取引を買収統合して自社内で行うか、どこから先を市場にアウトソーシングするかという「企業の境界」の問題を厳密に分析することを可能にしたのである。

彼らの理論では、資産所有配分の相違は両社の取引が生み出す価値を高めようとする各社の資産への投資水準の相違を生み出す。A社による買収統合はA社の投資インセンティブを高めるが、B社の投資インセンティブを弱めてしまう。B社による買収統合も同様である。非統合の場合には各社の投資インセンティブは中程度のバランスされた水準となる。

たとえば彼ら自身による応用例として保険会社による保険契約の販売を考えよう。保険会社の選択肢は直販もしくは専属代理店を利用する(統合のケース)か独立系代理店を利用する(非統合のケース)かである。重要な資産は顧客(契約者)リストで、前者では保険会社の所有、後者では独立系代理店の所有となる。

次ページ「企業と境界」の問題
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