ノーベル賞ローマー教授はIT革命を予見した ローマーモデルとは「知識」が牽引する成長だ
今年で50周年を迎えるノーベル経済学賞(正式にはアルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞)は、イェール大学のウイリアム・ノードハウス教授とニューヨーク大学のポール・ローマー教授に贈られた。授賞理由は、持続的な成長を達成するために、重要な気候変動及び技術革新の問題を取り入れた経済成長モデルを開発したこと、とされている。
環境問題と技術革新が経済成長に及ぼす影響は、一見すると正反対のようである。確かに、環境を良くするための規制は経済成長にマイナスの影響を与えそうだが、技術革新は無条件に経済を成長に導く、と考えがちである。しかし、限られた資源制約のもとで、できる限り経済を成長させ、人々の満足度を高めるという意味では、双方とも同じ課題を追究しているのである。
日本が経験した過酷な公害問題を解決する際に議論されたように、より良い環境を目指すためには、非生産的であっても環境改善設備を整備しなくてはならない。環境改善設備投資を行うことで、短期的には生産の増加を抑えることになっても、長期的には人々の快適な生活につながる。問題は、どのような政策や対策をとれば、短期的な生産の減少も抑制しつつ、環境改善による長期的な生活水準の向上を達成できるか、なのである。
この点は、技術革新についても同じである。近年、日本の科学系のノーベル賞受賞者が、受賞後の記者会見でつねに口にするのは、「基礎研究への支援」の必要性であるが、これはまさに、環境問題への資源配分の問題と同じである。技術革新と経済成長の問題は、すぐに成果が出る課題(または、すぐに生産につながる課題)にヒトやカネが集中しすぎることを回避し、長期的に技術革新をもたらす可能性がある基礎研究にどれだけ資源を配分すべきかを考えることなのである。
ローマー教授の業績とその意義
筆者の研究分野は経済成長全般で、環境問題も時に扱うが、ここ数年は技術革新に関する実証的な研究が中心であるため、ここでは、ローマー教授の業績とその意義を中心に、今回のノーベル経済学賞の意味を考えていきたい。
経済成長理論は1960年代に隆盛を極めた分野だが、1970年代以降はマクロ経済学のもうひとつの柱である景気循環論が主流となっていた。しかし、ローマー教授が1986年に有名な論文“Increasing Returns and Long-run Growth”をJournal of Political Economyに発表して以降、経済成長論は再び脚光を浴びることになる。こうした目覚ましい貢献から、いずれはノーベル経済学賞を取るだろうといわれていた。
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