ノーベル賞ローマー教授はIT革命を予見した

ローマーモデルとは「知識」が牽引する成長だ

ローマー教授が画期的な論文を発表した翌年の1987年に、ロバート・ソロー教授(マサチューセッツ工科大学)の経済成長理論への貢献に対して、ノーベル経済学賞が贈られているが、このソロー教授の成長モデルでは、経済成長をもたらす3つの要因(資本、労働、技術進歩)のうち、技術進歩は経済主体の意思決定のリストには含まれていなかった。すなわち新たな技術のアイデアは、偶然、天から降ってくるようなものだと考えられていた。

もちろん実証的な分野では、ツヴィ・グリリカス教授(ハーバード大学)らによって技術進歩率、または全要素生産性(TFP)上昇率は研究開発投資によって上昇するといったことが確認されていたが、研究開発投資による知識の蓄積によって長期的な成長率が変わってくるというマクロ経済学的な結論は、得られていなかったのである。

ローマー教授の最大の功績は、この外生的とされていた技術革新が経済主体の意思決定の中で決まるという形の経済成長モデルを、構築したことにある。この技術革新の要因としては、さまざまなものがあげられる。グリリカス教授が見出した研究開発の蓄積による技術知識でもよいし、研究者に蓄積された知識でもよい。

しかし、すでに述べたように、経済全体の資金や人材が一定であるとすれば、資金を研究開発投資に利用したり、研究者を増加させたりすることで、生産部門への資源投入は少なくなる。したがって長期的な経済成長率は、この知識部門と生産部門への資源配分に左右されることになる。

技術革新が経済成長にとって非常に重要であることは、ソロー教授のモデルでもローマー教授のモデルでも同じなのだが、ソロー教授の場合は、技術革新による成長が経済の体系内でコントロールできないのに対し、ローマー教授のモデルでは、経済の体系内の意思決定によって技術革新を通した経済成長率がコントロールできるのである。こうしたことからローマー教授が提示した成長モデルは「内生的成長モデル」と呼ばれるようになる。

もうひとつの特徴「経済成長は減速しない」

ローマー・モデルがソロー・モデルと異なるもうひとつの点は、経済成長が減速しない、すなわち成長率が下がっていかない、という点である。ソロー・モデルでは、資本の限界生産力逓減がはたらくため、1人当たりGDPは長期的には一定の水準に落ち着く。しかしながら、ローマー・モデルでは、経済は一定の1人当たりGDP成長率を維持し続ける。これは、研究開発や人材投資によって得られた知識は、ほかの生産要素に置き換えることができないため、知識を蓄積していっても生産への貢献度が低下することがないためである。

2010年にローマー教授は、スタンフォード大学のチャールズ・ジョーンズ教授との共著(“The New Kaldor Facts: Ideas, Institutions, Population, and Human Capital”, American Economic Journal:Macroeconomics)で、21世紀の経済成長の特徴の1つとして、1人当たり所得やTFP水準に国ごとに大きな格差ができていることを指摘している。

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