ノーベル賞ローマー教授はIT革命を予見した ローマーモデルとは「知識」が牽引する成長だ

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確かに先進国経済だけを見ると、日本や韓国のように経済成長率が10年ごとに低下していく国もあり、ソロー・モデルが成立しているようにも見えるが、米国のように、1世紀以上にわたって1人当たりGDP(国内総生産)成長率が2%台を続けている国もある。また、ローマー教授やジョーンズ教授が指摘するように、発展途上国間では経済成長率の格差は非常に大きい。

この問題に対して、ソロー・モデルを使ってモデルの外から与えられる技術進歩率の差で説明することも可能だが、長期的には新しい技術も広く行き渡るということを考えると、成長率格差を説明するには説得的ではない。一方、ローマー教授の成長モデルの場合は、技術進歩に影響を及ぼすさまざまな要素の(研究開発、人的資本など)配分が異なることで、長期的な生産性上昇率の違いや1人当たりの所得の違いを説明することができる。

実際、ローマー・モデルが現れて以降、ロバート・バロー教授(ハーバード大学)らが、各国の長期的な経済成長率の違いを、教育による人的資本の蓄積、研究開発投資による知識の蓄積等で実証的に検証しようとしている。

適切な戦略を示唆、現在のIT革命を予見

ローマー教授の経済成長モデルは、1980年代後半から1990年代にかけて、多くの経済学者に影響を与え、この分野で多数の貢献がなされている。たとえばフィリップ・アギヨン教授(ロンドン・スクールオブエコノミクス)、ピーター・ホウイット教授(ブラウン大学)らは、競争過程を通したヨーゼフ・シュンペーターの「創造的破壊プロセス」を取り入れた内生的成長モデルを構築した。ダロン・アセモグル教授(マサチューセッツ工科大学)らは、経済社会制度の選択が経済成長に及ぼす影響を考察している。

一連の成果は、大学院レベルのテキストはもちろん、ジョーンズ教授の教科書(『ジョーンズ マクロ経済学』東洋経済新報社)のように学部レベルのテキストにも掲載されるようになっている。

それでは、ローマー教授が開拓した内生的経済成長モデルは、現在の経済にどのように関わっているのだろうか。ここでは2つのトピックを取り上げる。

1つは、ローマー・モデルを成長戦略の基礎となる理論として捉える考え方である。世界金融危機後、先進国の経済は「長期停滞(Secular Stagnation)」と呼ばれるほど、生産性の伸びが低下した。中には、ロバート・ゴードン教授(ノースウェスタン大学)のような「米国の将来的な生産性上昇は期待できない」という議論をする人も現れている(R. Gordon, The rise and Fall of American Growth, Princeton University Press)。

米国では雇用の回復は顕著だが、日本と同様に所得の伸びは緩やかである。こうした状況の下で、ローマー教授が開拓した内生的経済成長理論の成果は、どのような要素に資源を投入していけば、より生産性を向上させ、高い経済成長率を持続させられるかを教えているという点で、長期停滞を脱するヒントを与えてくれていると言えるだろう。

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