採用プロドットコム株式会社
前回は、金沢工業大学が主催した「KIT人材開発セミナー」および日本経団連が発表した「大学卒業予定者・大学院修了予定者等の採用選考に関する企業の倫理憲章」についてお届けした。金沢工業大学の取り組みは、名称はインターンシップとなっているが、内容そのものは学部生および院生別にプログラムされた採用プロモーション。つまり、企業の採用ニーズを根拠とした大学による「採用選考活動」の提案である。
一方の倫理憲章に関する議論は突き詰めて言うと、「大学の学事日程の障害になるような早期からの採用活動は控えてほしい」という一部の上位難関大学の理系指導教授の声にリードされた“大学側の要望”であるのに対し、経済団体側がそれを受けて"このように対応します"と提案した罰則のない約束事である。
●対症療法的な戦略で課題は解決できるのか?
日本において産学連携が活発になったのは1990年代であるが、当時は経済状況の見通しが悪く、議論や試みは現実論よりもどちらかと言うと「こうあるべき」という理念先行の内容であった。理念が先行しつつも、中身がともなわなかった理由として筆者は、米国の大学発ベンチャービジネスの成功事例が数多く報告されたものの、大学教授自らが先陣を切って企業に営業を仕掛ける側面についてその現実性の議論が乏しかったものと考えている。大学発の技術を民間に移植する技術移転組織(TLO)なども設立されたが、想定されている国内の適正数を遥かに超える数が設立されたことも成果が分散、現実性に乏しいと指摘される原因のひとつになった。このように見ると90年代の産学連携はどちらかというと大学発の技術の民間移転や新産業創出にベクトルが向き、人材採用の絡みではさほど大きな話題になっていなかったといえる。しかし、その後の景気回復を背景に企業の採用意欲も向上、長期的な視点で見た国内の人材市場における課題を念頭におき、産学連携を人材採用の手法として長期的に捉えようとする“先進的企業”が現れ始める。
我が国が抱える人材市場、特に新卒採用市場における長期的な課題とは、少子化や理系人材の不足(特に工学系人材)、膨張した進学率を背景とした大学生の二極化対策といったものだ。採用数や企業規模にかかわらない共通の課題に対し、“先進的企業”にはそれらを視野に置いた具体的な施策が観察される。
日本経団連が言う「採用選考活動」、つまりメディアやイベントといった採用プロモーションは、どれほどの予算をかけようと基本的には人事部に与えられた単年度予算での施策に過ぎないが、ここで言う“先進的企業の施策”とは「産学連携という大学教育」と連動した「採用選考活動」だ。そして、その施策期間は最低でも数年から長ければ数十年単位を前提とした試みだ。「教育は国家百年の大計」という言葉がある。その言葉を「採用は企業数十年の大計」という例えに当てはめ、かつ現在の日本の人材市場が抱える課題が慢性病であるとするならば、単年度単位の対症療法的な治療(施策)をいくら続けていても病状が劇的に良くなることは期待しにくい。
不景気極まりない90年代、成果がすぐに見えにくい大学発の技術移転という間口では産学連携は総論賛成各論反対の取り組みにくいカタチであった。しかし、冬の時代を堪えた企業が今、人員調整が矮小化するレベルで成長ストーリーを考えた時、産学連携は“先進的企業”のニーズをキャッチアップする施策になり、「景気の局面にかかわらず、このゾーンは絶対に採用するという人材確保手段」の側面を持ち出したと言える。
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