憲法9条「戦争放棄条項」は、誰が作ったのか

マッカーサー説と幣原喜重郎説を検証する

しかし、憲法問題調査委員会のメンバーだった松本烝治・宮沢俊義ら法学者は、そのような国際情勢をまったく考慮に入れないまま、明治憲法とほとんど変わらない保守的な憲法草案をGHQに提出してしまう。

そのような日本側の態度に、怒りと焦りを感じたマッカーサーは、ついにGHQが「戦争放棄」条項を盛り込んだ日本国憲法の草案を起草することを決意する。こうして日本人は自らの手で憲法を起草する機会を失ったのである。

GHQ案に「「戦争放棄」と「象徴天皇制」

こうして作られたGHQの憲法草案を受けて、幣原首相はマッカーサーと会談することになった。

マッカーサーは、GHQ案に「戦争放棄」と「象徴天皇制」が含まれているのは、3月末に初回会合が開かれる予定の極東委員会でソ連をはじめとする対日強硬路線をとる連合国諸国の厳しい攻勢を回避するためであると述べた。さらにマッカーサーは、「戦争を抛棄すると声明して日本がMoral Leadershipを握るべきだと思ふ」と語った(服部『増補版・幣原喜重郎』283ページ)。 

だが、そのようなマッカーサーの情熱的なアピールに対して、幣原は冷めていた。これに対して幣原は、「leadershipと言はれるが、恐らく誰もfollowerとならないだらうと言つた」。それに対してマッカーサーは、「followersが無くても日本は失う処はない」と答えたという。

幣原は、外務大臣としての豊富な外交経験から、すでに戦前に日本も締約国となった不戦条約で示された「戦争抛棄」の理念には賛同していながらも、それを憲法の条文に加えて日本の将来の行動を自ら制約するような規定には抵抗感があった。

しかし、最終的に幣原はGHQ案を受け入れる決断をする。それは、ここで決断しなければ、ソ連や中国が参加する極東委員会が憲法草案に関与するようになるかも知れず、そうなれば天皇制の維持が不可能になることを想定したからだった。幣原は、GHQ案の受け入れに涙を浮かべて抵抗する閣僚たちに、次のように述べた。

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