憲法9条「戦争放棄条項」は、誰が作ったのか

マッカーサー説と幣原喜重郎説を検証する

もともとアメリカは、日本の占領統治をより円滑に進めるため、天皇制を維持する意向であった。マッカーサーも、「日本は戦争に敗れたとはいえ、皇室の存在は以前盤石の重きをなしている。この皇室を中心に団結せざれば、日本の再建は図り難い」と語り、アイゼンハワー陸軍参謀総長に次のような書簡を送っている。  

「天皇を起訴すれば、間違いなく日本人の間に激しい動揺を起こすであろうし、その反響は計り知れないものがある。まず占領軍を大幅に増大することが絶対に必要となってくる。それは最小限一〇万の軍隊が必要となろうし、その軍隊を無期限に駐屯させなければならないような事態も十分ありうる」(古関彰一『日本国憲法の誕生』<岩波現代文庫、2017年>119-120頁、および、西修『図説・日本国憲法の誕生』<河出書房新社、2012年>42ページ)

ところが、ソ連、中国、オーストラリア、ニュージーランドなどの連合国諸国は、日本の軍事的脅威の再来を懸念するあまり、あくまで天皇制廃止を要請する構えであった。このような国際情勢について、外交官出身で国際感覚に優れた幣原は、次のように回想する。

「幸いマッカーサーは天皇制を存続する気持ちを持っていた。本国からもその線の命令があり、アメリカの肚は決まっていた。ところがアメリカにとって厄介な問題が起こった。それは濠洲やニュージーランドなどが、天皇の問題に関してはソ連に同調する気配を示したことである。これらの国々は日本を極度に恐れていた。日本が再軍備をしたら大変である。戦争中の日本軍の行動は余りに彼らの心胆を寒からしめたから無理もないことであった。殊に彼らに与えていた印象は、天皇と戦争の不可分とも言うべき関係であった。日本人は天皇のためなら平気で死んでいく。恐るべきは『皇軍』である。という訳で、これらの国々のソ連への同調によって、対日理事会の評決ではアメリカは孤立化する恐れがあった」(憲法調査会事務局「幣原先生から聴取した戦争抛棄条項等の生まれた事情について」鉄筆編『日本国憲法 ―憲法九条に込められた魂』<鉄筆、2016年>141-142ページ

このような情勢判断のもと、幣原は日本国憲法に「戦争放棄」条項を入れる必要性を、次第に深く理解するようになった。つまり、幣原にとって「戦争放棄」とは、単に平和主義の理想を表現するだけでなく、「天皇制を維持」するために不可欠な前提となるべきものであったのだ。すなわち、「この構想は天皇制を存続すると共に第九条を実現する言わば一石二鳥の名案」であったのだ(憲法調査会事務局「幣原先生から聴取した戦争抛棄条項等の生まれた事情について」鉄筆編『日本国憲法 ―憲法九条に込められた魂』<鉄筆、2016年>142頁)

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