憲法9条「戦争放棄条項」は、誰が作ったのか

マッカーサー説と幣原喜重郎説を検証する

このマッカーサーの証言に関してはこれまで、マッカーサーが日本に戦争放棄を“押しつけ”ながらも、それを隠蔽するために幣原の提案と述べたのではないか、という疑念が根強く存在する。最近の研究成果を参考にすると、この論点については次な説明が可能である。

中央大学の服部龍二教授は、東京裁判で元外交官の白鳥敏夫の弁護人を務めた広田洋二が、幣原の秘書である岸倉松の談話をもとに、次のように述べていたことを明らかにしている。

「戦争放棄の思想または理想について幣原首相から話し出し、幣原首相、マ元帥がまつたく意見が一致したのは事実であるが、日本憲法に規定するとかしないとかという問題には、ぜんぜん触れていない、というのである。それであるから、二月二九日に、日本憲法の米国原案が日本側に提示されたときには、幣原首相もちよつとおどろいたようであり、日本側で作ついていた松本草案の中にも、戦争放棄らしい思想はすこしも含まれていなかつた。幣原氏には、それを憲法で規定しようとする考えは全然なかつたからである」(服部龍二『増補版・幣原喜重郎』<吉田書店、2017年>278-279ページ)

このように、幣原は「戦争放棄」を理想として考えていたとしても、それを拘束力を持つかたちでの憲法の条文に入れるという意向は有してはいなかったようである。だとすれば、憲法九条を幣原の発案と位置づけるのは適切ではないだろう。

「戦争放棄」の目的は、「天皇制維持」だった

では、やはりマッカーサーが「戦争放棄」を日本に“押し付けた”のだろうか。

それを対米従属という短絡的な結論へと導くべきではない。なぜなら、幣原は一方で、天皇制を維持するためには、日本が「戦争抛棄」を「ハッキリと世界に声明する事」で、平和国家としての姿を世界に示す必要を強く感じていたからである。

なぜ「天皇制の維持」のために「戦争放棄」を宣言する必要があったのか。それを理解するためには、当時の国際情勢を知る必要がある。

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